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“三兎を追う”満身創痍のインテルは「今後2週間が重要な節目」スクデット争いは、セリエAに専念できるナポリが有利か【現地発コラム】

片野道郎

2025.03.03

頂上決戦で先にネットを揺らしたのはインテルだった。22分にディマルコが直接FKをねじ込んだ。(C)Getty Images

 3月1日にスタディオ・ディエゴ・アルマンド・マラドーナで行なわれたナポリ対インテルは、22分にフェデリコ・ディマルコの直接FKでインテルが先制するも、後半に入って一方的な攻勢に立っていたナポリが、終了間際の87分、その8分前に途中出場したフィリップ・ビリングのゴールで同点に追いつき、1ー1のドローに終わった。

 首位インテルと2位ナポリが、わずか勝点1差で迎えた直接対決。ともに万全と言うにはほど遠いチーム状態で試合に臨んだことを考えれば、引き分けはどちらにとっても痛みの少ない無難な結果と言えるかもしれない。とはいえ、両チームそれぞれに勝機があったことも確か。その意味では相手に大きなダメージを与える機会を逸した、悔しい引き分けという側面も持っている。とくにホームのナポリにとっては――。

 ナポリは就任1年目のアントニオ・コンテ監督の下、昨シーズンとは見違えるような堅固なチームに変身し、安定した戦いぶりで首位争いの主役を演じてきた。ところが、冬の移籍マーケットでチームの看板だった左WGフビチャ・クバラツヘリアがパリ・サンジェルマンに移籍(ジョバンニ・マンナSDはその経緯を「ほとんど脅されるような形で」と振り返っている)したうえ、その穴を埋める存在だったダビド・ネーレスも2月半ばから大腿部の故障で欠場していて、攻撃力が一気にダウン。直近4試合は3分け1敗と勝ち星から遠ざかり、インテルに首位の座を譲る不振に陥っていた。しかもこの試合は、圧倒的な運動量で中盤を支えてきたアンドレ・アンギサもふくらはぎを傷めて欠場と、チームで最も重要な戦力を2枚欠いた状態だった。

 他方、前半戦からナポリとつかず離れず首位の座を争ってきたインテルも、スタメンにはレギュラー陣が顔を揃えている(唯一GKは親指骨折で離脱中のヤン・ゾマーに代わりジョゼップ・マルティネスが出場)ものの、FWマルキュス・テュラムは故障明けでコンディション不良、チーム全体もセリエAに加えてチャンピオンズリーグ(CL)、コッパ・イタリアと3大会が強いるハードスケジュール下で、明らかに疲弊が目立つ状況。直近のセリエA5試合の成績は2勝1分け2敗と、それほど芳しいものではなかった。

 そんな状況でも、いざ試合が始まれば、両チームともに現時点における最大出力を発揮する意思を明確に打ち出して戦う、ハイペースでインテンシティーの高い展開になった。ナポリは前線からの激しいマンツーマンハイプレスでインテルのビルドアップを分断し、試合の流れを手元に引き寄せようと試みる。

 その影響でインテルが好調時に見せる流動的なポジションチェンジとそれを活かしたスムーズな前進は影を潜め、その代替策として用いられる前線へのロングボールも、ターゲット役となるテュラムの運動量が少ないため上手く収まらない。

 ただ、ナポリは中盤でボールを奪ってからの攻撃がやや慎重で、人数をかけずに早いタイミングで前線のロメル・ルカクや、インサイドハーフのスコット・マクトミネイに当てようとするも、インテルの組織的な守備に阻まれて、なかなか突破口を見出すことができない。

 どちらもラスト30メートルへの侵入に苦しみ、中盤でボールが行き来する膠着した展開になりかけた22分、均衡を破ったのはセットプレーだった。ゴール正面ペナルティアークのすぐ外でインテルが得た直接FKを、ディマルコが壁の外を巻く美しい弾道でゴール左上隅に突き刺したのだ。

 それまでほとんど好機を作ることができなかったインテルは、ここから積極的に主導権を握りにいこうと攻勢に立つものの、ナポリの最終ラインにストレスをかけるまではいかず、徐々に押し返される形で前半を終える。前半終了時点でのボール支配率は56%対44%とナポリが優勢だったが、シュート数は7対6、枠内シュートは0対1、ゴール期待値も0.59対0.32と、インテンシティーの高い攻防が続いた割には決定機の少ない、拮抗した内容だった。

【動画】セリエA公式が配信した、ナポリ対インテルの"ロングバーション"ハイライト!
 
 しかし後半はそれが一変、一方的な展開になった。立ち上がりからアグレッシブに前に出たナポリに対して、ラインを下げて受けに回ったインテルは守勢一方の戦いを強いられる。決定的だったのは後半開始から間もなく、ハカン・チャルハノール、ディマルコが相次いで筋肉系の不調を訴えたことだ。インザーギ監督は51分に両者を交代させ、65分には精彩を欠いていたテュラムも下げるなど、本来なら決定的な違いを作り出すべき主力3選手をベンチに呼び戻さざるをえなくなった。

 しかも、本来ならばディマルコのバックアップを務めるべきカルロス・アウグストをはじめ、左右のWBに対応するマッテオ・ダルミアンも、さらに冬の新戦力二コラ・ザレフスキも故障離脱中で、インテルは左WBの控えが不在の状況だった。それもあって、ディマルコと交代で本来右CBのバンジャマン・パバールが入ってから10分近くの間、誰がどのポジションに入ってどういう配置を取るのかが不確かなまま。右サイドにデンゼル・ドゥムフリースとパバールが同居する一方で、左サイドには誰もいない混乱した状態が続くことになった。

 シモーネ・インザーギ監督は試合後、「交代当初はドゥムフリースを右SH、パバールを右SBに、左SHにヘンリク・ムヒタリアン、左SBにアレッサンドロ・バストーニを置いた4ー4ー2を指示した」と説明したが、ピッチ上の実際の配置は、その指示が徹底されていなかったことを示すアンバランスなものだった。

 ナポリに悔いが残るとすれば、この混乱に乗じてもっと早いタイミングでゴールを奪えなかったことだろう。確かに、ジョバンニ・ディ・ロレンツォが積極的に攻め上がってインテルの左サイドを崩しにかかるなど、一方的に押し込む展開にはなった。インザーギ監督はそれを受けて、ドゥムフリースを左サイドに移して配置を5ー3ー2に戻すなど、さらなる対応を取らざるをえなかった。しかしそれでも、ゾマーに代わってインテルのゴールを守るマルティネスを大きな困難に陥れる場面はなかなか作れないままだった。

 流れがさらにナポリ側に傾いたのは、コンテ監督が残り15分を切ったところで、ジャコモ・ラスパドーリに代えてノア・オカフォー、ビリー・ギルモアに代えてビリングを投入してからだった。それ以降は、ゴール前に立てこもったインテルをナポリが叩き続ける展開になった。そして87分、左ハーフスペースの浅い位置から縦のワンツーで抜け出したスタニスラフ・ロボトカの低いクロスを、ゴール前中央でフリーで受けたビリングが左足で合わせる。このシュートはGKに阻まれたものの、そのこぼれ球を押し込んでゴールネットを揺らし、ようやくナポリが1ー1の同点に追いついた。

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コンテ監督がもう少し早く交代カードを切っていれば