3日後の10月14日にウディネで行なわれたイスラエル戦は、ガザ地区でイスラエルが続けている侵攻に反対するデモが市内で行なわれるなど、ピッチ外に緊迫した空気が漂う中での試合となった。
ガットゥーゾ監督は、1か月前のアウェー戦(5-4で勝利)で、イスラエルの流動性の高い攻撃に守備陣が振り回され、そのギャップを衝かれて失点を重ねた経験を踏まえ、DFを1人増やした3-5-2にシステムを変更、さらに守備の原則もローブロック時には人を捉まえるよりもスペース管理を優先するゾーン重視のそれに変更してこの試合に臨んだ。スタメン11人は以下の通り。
システム:3-5-2
GK:ドンナルンマ
DF:ディ・ロレンツォ、マンチーニ、カラフィオーリ
MF:カンビアーゾ、バレッラ、ロカテッリ、トナーリ、ディマルコ
FW:レテギ、ラスパドーリ
イタリアは立ち上がりからイスラエルの強度の高いマンツーマンハイプレスに悩まされ、なかなか前線に質の高いボールが届けられない苦しい展開。守備では、相手のビルドアップに対してはマンツーマンのハイプレスで圧力をかけつつ、自陣まで押し込まれた後は5-3-2のコンパクトなローブロックによるゾーンディフェンスで、ピッチの幅をカバーしつつ中央の厚みも確保するという原則がまずまず機能した。
ただ、敵陣まで押し込んでボールを奪われた後のネガティブトランジション(攻から守への切り替え)では、配置のアンバランスやプレッシャーの遅れから、一度ならず危険なカウンターアタックを許した。前半は18分と27分、後半も59分にカウンターからフリーでシュートを打たせる場面があったが、うち1回はシュートが枠を外れ、残る2回はドンナルンマのスーパーセーブで難を逃れている。とりわけ59分に足下を襲ったオスカル・グロークの速いシュートを、軸足を抜いて真下に倒れ込むコラプシングで素早く弾いたセーブは美しく、また見事だった。
プレーオフ出場権=グループ2位を確定させるためには勝点3が必須という状況にあるイタリアにとっては、押し込んではいるものの決定機らしい決定機を作れず、逆に頻度は低いとはいえカウンターでピンチに陥るという前半の流れは、決して好ましいものではなかった。それを救ったのが、終了間際の45分に得たPKだった。例によって左サイドでディマルコが前を向いたところにリッカルド・カラフィオーリ、ニコロ・バレッラ、ラスパドーリが絡んで細かいパスを交換しての崩しから、DFよりも一瞬早くボールに足を出したレテギが倒され、主審は躊躇なく笛を吹いた。
3日前のエストニア戦でPKを失敗した後、「次にPKがあったら躊躇なく自分が蹴る」と明言した通り、すぐにボールを抱え込んだレテギは、助走をスローダウンするフェイントを入れた末に最後まで動かなかったGKに弾道を読まれた前回とは対照的に、助走の勢いに乗ったまま強烈なシュートをゴール左上に叩き込んだ。
ガットゥーゾ監督は、後半開始から2トップの一角のラスパドーリをピオ・エスポージトに変更。上で見たPKの場面を除くと、2ライン間でパスコースを提供したりスペースを作る動きで崩しの局面をオーガナイズする機会があまり得られなかったラスパドーリに対し、ピオ・エスポージトは強靭なフィジカルを活かして縦パスを収めるポストプレーで攻撃を加速させ、さらに強度の高いプレッシングでイスラエルのビルドアップをスローダウンさせる2つのプラスアルファをチームにもたらした。
とはいえ、それだけでは試合の流れを完全に引き寄せるには十分とは言えなかった。それをもたらしたのはまたもやレテギだった。均衡した展開が続いた73分、後方からのロングボールのこぼれ球を拾った相手に詰めてボールを奪うと、そのまま持ち込んで左45度の「デル・ピエロ・ゾーン」から、GKを巻いてファーポスト際に飛び込む美しいシュートを決めて2-0。試合の趨勢を完全に決定づけた。
イタリアにとってもうひとつの収穫は、2-0とリードしてからのラスト15分も、受けに回って自陣に引きこもることをせず、主導権を握って敵陣で試合を進める意志を持ち続け、それに成功したこと。90分に得たCKから決まった3-0のゴールはその賜物だった。
この勝利でグループ2位が確定したことにより、11月の2試合(アウェーのモルドバ戦、ホームのノルウェー戦)は実質的に「消化試合」となる。ガットゥーゾ監督にとっては、イタリアにとって12年ぶりとなるW杯出場が懸かった3月のプレーオフに向けて、チームを固めると同時にこれまで実戦で試す機会がなかったいくつかのオプション(選手と戦術の双方)をテストする機会にもなるだろう。
そのプレーオフは、各グループ2位の12チームに2024-25のUEFAネーションズリーグの順位によって出場権を得た4チームを加えた、計16チームによって行なわれる。この16チームが4つの「パス(グループ)」に分けられ、それぞれのパス内で準決勝と決勝がそれぞれ一発勝負で行なわれて、勝者がW杯出場権を得る仕組みだ。
パスの振り分けは16チームをFIFAランキングに応じてポット1からポット4に振り分けた抽選によって決められる。イタリアは現時点ですでにポット1が確定しており、準決勝はポット4(ネーションズリーグ経由で参加するチーム)の4チームいずれかと当たることが決まっている。
予選はまだ最後の2節を残しているが、現時点でポット4が濃厚なのはルーマニア、スウェーデン、北マケドニア、北アイルランドの4か国。前回大会の北マケドニア、前々回のスウェーデンと、過去2大会のプレーオフで苦杯を飲まされた相手が両方入っているのは運命のいたずらだろうか。
この4か国の中では、前線にアレクサンデル・イサク(リバプール)、ヴィクトル・ヨケレス(アーセナル)という強力なストライカーを擁するスウェーデンが一番当たりたくない相手。とはいえ、プレーオフを乗り越えられないようなら、イタリアといえどもW杯に出場する資格はない。まずは11月の2試合でチームがどのように仕上がっていくのかに注目したい。
文●片野道郎
【動画】エストニア相手に、ケーン、レテギ、ピオ・エスポージトがゴール!
ガットゥーゾ監督は、1か月前のアウェー戦(5-4で勝利)で、イスラエルの流動性の高い攻撃に守備陣が振り回され、そのギャップを衝かれて失点を重ねた経験を踏まえ、DFを1人増やした3-5-2にシステムを変更、さらに守備の原則もローブロック時には人を捉まえるよりもスペース管理を優先するゾーン重視のそれに変更してこの試合に臨んだ。スタメン11人は以下の通り。
システム:3-5-2
GK:ドンナルンマ
DF:ディ・ロレンツォ、マンチーニ、カラフィオーリ
MF:カンビアーゾ、バレッラ、ロカテッリ、トナーリ、ディマルコ
FW:レテギ、ラスパドーリ
イタリアは立ち上がりからイスラエルの強度の高いマンツーマンハイプレスに悩まされ、なかなか前線に質の高いボールが届けられない苦しい展開。守備では、相手のビルドアップに対してはマンツーマンのハイプレスで圧力をかけつつ、自陣まで押し込まれた後は5-3-2のコンパクトなローブロックによるゾーンディフェンスで、ピッチの幅をカバーしつつ中央の厚みも確保するという原則がまずまず機能した。
ただ、敵陣まで押し込んでボールを奪われた後のネガティブトランジション(攻から守への切り替え)では、配置のアンバランスやプレッシャーの遅れから、一度ならず危険なカウンターアタックを許した。前半は18分と27分、後半も59分にカウンターからフリーでシュートを打たせる場面があったが、うち1回はシュートが枠を外れ、残る2回はドンナルンマのスーパーセーブで難を逃れている。とりわけ59分に足下を襲ったオスカル・グロークの速いシュートを、軸足を抜いて真下に倒れ込むコラプシングで素早く弾いたセーブは美しく、また見事だった。
プレーオフ出場権=グループ2位を確定させるためには勝点3が必須という状況にあるイタリアにとっては、押し込んではいるものの決定機らしい決定機を作れず、逆に頻度は低いとはいえカウンターでピンチに陥るという前半の流れは、決して好ましいものではなかった。それを救ったのが、終了間際の45分に得たPKだった。例によって左サイドでディマルコが前を向いたところにリッカルド・カラフィオーリ、ニコロ・バレッラ、ラスパドーリが絡んで細かいパスを交換しての崩しから、DFよりも一瞬早くボールに足を出したレテギが倒され、主審は躊躇なく笛を吹いた。
3日前のエストニア戦でPKを失敗した後、「次にPKがあったら躊躇なく自分が蹴る」と明言した通り、すぐにボールを抱え込んだレテギは、助走をスローダウンするフェイントを入れた末に最後まで動かなかったGKに弾道を読まれた前回とは対照的に、助走の勢いに乗ったまま強烈なシュートをゴール左上に叩き込んだ。
ガットゥーゾ監督は、後半開始から2トップの一角のラスパドーリをピオ・エスポージトに変更。上で見たPKの場面を除くと、2ライン間でパスコースを提供したりスペースを作る動きで崩しの局面をオーガナイズする機会があまり得られなかったラスパドーリに対し、ピオ・エスポージトは強靭なフィジカルを活かして縦パスを収めるポストプレーで攻撃を加速させ、さらに強度の高いプレッシングでイスラエルのビルドアップをスローダウンさせる2つのプラスアルファをチームにもたらした。
とはいえ、それだけでは試合の流れを完全に引き寄せるには十分とは言えなかった。それをもたらしたのはまたもやレテギだった。均衡した展開が続いた73分、後方からのロングボールのこぼれ球を拾った相手に詰めてボールを奪うと、そのまま持ち込んで左45度の「デル・ピエロ・ゾーン」から、GKを巻いてファーポスト際に飛び込む美しいシュートを決めて2-0。試合の趨勢を完全に決定づけた。
イタリアにとってもうひとつの収穫は、2-0とリードしてからのラスト15分も、受けに回って自陣に引きこもることをせず、主導権を握って敵陣で試合を進める意志を持ち続け、それに成功したこと。90分に得たCKから決まった3-0のゴールはその賜物だった。
この勝利でグループ2位が確定したことにより、11月の2試合(アウェーのモルドバ戦、ホームのノルウェー戦)は実質的に「消化試合」となる。ガットゥーゾ監督にとっては、イタリアにとって12年ぶりとなるW杯出場が懸かった3月のプレーオフに向けて、チームを固めると同時にこれまで実戦で試す機会がなかったいくつかのオプション(選手と戦術の双方)をテストする機会にもなるだろう。
そのプレーオフは、各グループ2位の12チームに2024-25のUEFAネーションズリーグの順位によって出場権を得た4チームを加えた、計16チームによって行なわれる。この16チームが4つの「パス(グループ)」に分けられ、それぞれのパス内で準決勝と決勝がそれぞれ一発勝負で行なわれて、勝者がW杯出場権を得る仕組みだ。
パスの振り分けは16チームをFIFAランキングに応じてポット1からポット4に振り分けた抽選によって決められる。イタリアは現時点ですでにポット1が確定しており、準決勝はポット4(ネーションズリーグ経由で参加するチーム)の4チームいずれかと当たることが決まっている。
予選はまだ最後の2節を残しているが、現時点でポット4が濃厚なのはルーマニア、スウェーデン、北マケドニア、北アイルランドの4か国。前回大会の北マケドニア、前々回のスウェーデンと、過去2大会のプレーオフで苦杯を飲まされた相手が両方入っているのは運命のいたずらだろうか。
この4か国の中では、前線にアレクサンデル・イサク(リバプール)、ヴィクトル・ヨケレス(アーセナル)という強力なストライカーを擁するスウェーデンが一番当たりたくない相手。とはいえ、プレーオフを乗り越えられないようなら、イタリアといえどもW杯に出場する資格はない。まずは11月の2試合でチームがどのように仕上がっていくのかに注目したい。
文●片野道郎
【動画】エストニア相手に、ケーン、レテギ、ピオ・エスポージトがゴール!
関連記事
- データを用いてミラン、インテルを徹底分析「アッレーグリとキブのスタイルは、まったくの対極」「伸びしろが最も大きく見えるのは」セリエA序盤戦総括(後編)【現地発コラム】
- データを用いてナポリ、ローマ、ユベントスを徹底分析「根付きつつあるガスペリーニ哲学」「トゥドル監督にとって最優先の課題は」セリエA序盤戦総括(前編)【現地発コラム】
- デ・ブライネを「遊軍」として起用するコンテ監督の狙い、ナポリが目指すべき到達点は――「いまはまだ、試行錯誤を重ねている段階」【現地発コラム】
- セリエA首位浮上の好調ミラン「チーム全体の構造が安定した」要因と「改善・向上の余地が残されている」局面とは【現地発コラム】
- 2連勝したガットゥーゾ新体制の“収穫と課題”、イタリア代表が直面している“現実”とは「随分と低い目標のように見えるかもしれないが」【現地発コラム】