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海外サッカー

“メッシ無き代表”をいかに想像するか。W杯制覇を狙うアルゼンチンが進めた「10年プロジェクト」の実像【現地発】

チヅル・デ・ガルシア

2022.11.01

マンチェスター・Uの逸材ガルナチョ。アルゼンチン人の母親のもとマドリードに生まれた彼を見逃さなかったのも、AFAの狙いが発揮された形であった。(C)Getty Images

マンチェスター・Uの逸材ガルナチョ。アルゼンチン人の母親のもとマドリードに生まれた彼を見逃さなかったのも、AFAの狙いが発揮された形であった。(C)Getty Images

 4年前のロシア大会後、AFAが打ち出した「代表チーム強化プロジェクト2018−2028」(通称10年プロジェクト)のコンセプトとなっているように、現在のアルゼンチン代表の活動は「個人」ではなく「アイデア」に基づいている。誰が監督になっても、どの選手が招集されても、一貫したアイデアのもとでチーム作りを実施するというものだ。

 前任のホルヘ・サンパオリの穴埋め役だったリオネル・エスカローニが(多くのメディアやファンから反感を買いながら)正式に監督に任命されたのは、まさにそのプロジェクトの主旨だったと言っていい。

 就任当時、トップチームの指導経験が皆無だったエスカローニは、アルゼンチン代表で監督として成長を遂げてきたわけだが、そのなかで実践した一つが「メッシ不在の状態での世代交代」だった。

 ロシア大会後にメッシが代表から離れた期間は9か月。エスカローニはその間に基盤となる中盤の主力を入れ替え、復帰後も新たな戦力に継続性を与えてチーム力の向上と安定に成功。試行錯誤を繰り返しながら、メッシに依存しなくともポゼッションを軸としたゲームコントロールが可能なチームを作り上げた。“エース”が欠場したW杯南米予選2戦(15節のチリ戦と16節のコロンビア戦)での勝利は、44歳の指揮官にとってカタール後に向けた大きな自信につながったに違いない。

 また、AFAは前述のプロジェクトの一環としてスカウティングスタッフをスペインに常駐させた。これによって欧州クラブの下部組織でプレーする未成年のアルゼンチン国籍保有者を隈なく視察する体制が敷かれ、「将来のメッシ」を見逃さない対策も万全となった。
 
 スペインのマドリードで生まれた18歳、アレハンドロ・ガルナチョ(マンチェスター・ユナイテッド)のようなスター性溢れる逸材がスペイン代表ではなくアルゼンチン代表を選び、すでにエスカローニ監督によってA代表に招集されたのも、AFAの10年プロジェクトの賜物なのだ。

 とはいえ、アルゼンチンの人々にとって「メッシ後のアルゼンチン代表」を想像するのは非常に困難であり、シンボルが去る寂しさは当分、そうそう紛らわせられるものではない。

 2005年8月17日から実に17年間、W杯では2006年ドイツ大会から4大会連続で我々は「メッシのいるアルゼンチン代表」を見続けてきた。バルセロナ育ちの「得体の知れないよそ者」として疑問視され、批判された時期もあったが、その間もずっとチームを支えるキープレーヤーとして、そして文字通りアルゼンチンを代表するトップクラスのアスリートとして彼は活躍してきた。

 途中、怪我のための欠場や、批判を理由に一時的に代表から遠ざかったこともあった。だが、いずれも「メッシの復帰」を前提とした構想の中で起きたもの。いまも「アルゼンチン代表=メッシ」という構図は、アルゼンチン国民の潜在意識にしっかりと焼き付けられているのである。
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