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海外サッカー

“重荷”の側面もある39歳のC・ロナウドが、先発起用される理由とは? 「並外れた勝利への執念、“ロナウド劇場”がチームの感情を揺さぶり――」【EURO2024コラム】

片野道郎

2024.07.04

 ロナウドの涙は、明らかに格上のポルトガルがスロベニアの堅守を攻めあぐね、PK戦にまでもつれ込もうとしている、というこの試合のストーリーに新たな文脈を付け加えた。敗北という悲劇の予感、そしてそれをはね返すヒロイックなどんでん返しへの期待と希求――。

 そして延長後半115分、そのドラマに拍車をかける出来事が起こる。スロベニアが自陣からやみくもにロングボールを放り込むと、最後尾に残っていたペペが処理を誤って詰めてきたシェシュコにかっさらわれ、広大なスペースでGKと1対1になる絶体絶命のピンチを招いてしまったのだ。

 意を決してゴールを飛び出したD・コスタが、セスコの狙いすましたシュートを大きく開いた左足で弾いてCKに逃れ、ポルトガルを敗北の淵から救った直後、今大会最年長プレーヤーである41歳のペペは、安堵のあまりがっくりと膝を突いてピッチに崩れ落ちた。

 そうしてようやくたどり着いたPK戦。スロベニアのひとり目ヨシプ・イリチッチのキックをD・コスタが見事にストップした後、ポルトガルのひとり目としてペナルティースポットに進み出たのは、他でもないロナウドだった。試合中のPK失敗をなおも引きずっているかのように緊張した表情で深呼吸をひとつ、一旦助走のスピードを落とすフェイントを入れた後に右足を一閃すると、ボールは飛び込んだオブラクの指先をかすめてゴール左隅に飛び込んだ。
 
 いつもならその流れのままガッツポーズを決めて見せるところを、ゴール裏を埋めたサポーターに向かって手を合わせ、「こんなところまで引っ張って申し訳ない」と言わんばかりに謝罪のポーズを見せた。PK戦はここからD・コスタがさらに2本連続でストップしてあっけなく決着。ポルトガルが苦しみ抜いた末にベスト8進出を果たした。

 ロナウドのPK失敗とその直後の涙は、緊迫してはいるものの平板だった試合を、一瞬にして「ロナウド劇場」に変えて見せた。それがもたらす心理的、感情的な影響は、見る側である我々はもちろん、ピッチ上にこそ強く及ぶものだ。その並外れた勝利への執念は、とりわけそれが否応のない形で表現された時に、チームの感情を揺さぶり、新たな結束、新たな使命感をもたらし、勝利という目標に向かう力を増幅させる。

 その絶対的なパフォーマンスだけに焦点を当てるならば、今やとチームにとって「重荷」となっている側面があることも否定できない。しかしそれでもマルティネス監督がロナウドをチームの中心に据え、絶対的な信頼を置く理由は、きっと別のところにある。存在自体がチームに生み出す求心力、「ロナウド劇場」が感情レベルでもたらす勝利への力。

 現地7月5日に行なわれる準々決勝の相手はフランスだ。自らが欧州サッカーに残した空虚を埋める新たなスーパースターとなりつつあるキリアン・エムバペとの新旧対決が、今度はどんなストーリーを紡ぎ出すかに注目したい。

文●片野道郎

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