実際、序盤のクロースのペドリ、ヤマルとのデュエルに始まり、前述のリュディガーとラウム、さらには後半のロベルト・アンドリヒ、マキシミリアン・ミッテルシュテッドのイエローカードも、正面または横から激しく寄せてボールに足を出すアグレッシブなデュエル(いずれもボールに届かず相手の足を削った)に対して出されたものだ。
つまるところ、この試合において強度の高いフィジカルコンタクトを伴う激しいデュエルが頻発することは、戦術的な必然だったということができる。しかしテイラー主審は、それをコントロールして試合をスムーズに運ぶうえできわめて重要な、序盤のファウルに対するジャッジの「さじ加減」を明らかに誤ってしまった。クロースの最初のファウルに対してイエローカードを出していれば、おそらくその後のゲームコントロールはかなり楽になっていたはずだ。
もうひとつ、後半半ばから延長にかけて出された10枚のイエローカードのうち、半分にあたる5枚(67分のクロース、74分のフェラン・トーレス、100分のカルバハル、110分のロドリ、120+4分のカルバハルの2枚目)は、1対1で抜き去られた相手をあえて後ろから引っ張って止めてカウンターアタックの危機を回避する、いわゆるタクティカルファウル。これも戦術的な要因がもたらしたものだ。
両チームとも、リトリートして自陣に守備ブロックを敷くよりも、積極的に前に出てボールにプレッシャーをかけ高い位置で奪回しようとする守備戦術を採用していることは、すでに見たとおり。これは、ボール周辺における敵味方の密度が高い一方で、その背後には大きなオープンスペースが広がっていることを意味する。ピッチの至る所で生じる1対1のデュエルで相手を抜き去れば、一気に危険なカウンターアタックのチャンスが生まれるというわけだ。
1対1で抜き去られた守備側の選手が、イエローカードという代償をあえて支払ってでも、相手を後ろから倒すタクティカルファウルに訴えざるをえない状況が頻出したのは、まさにそれゆえだ。疲労のためにプレスの強度が下がりピッチ上のスペースが大きくなった後半半ばから延長戦にかけての時間帯はなおさらである。
しかしこれは、両チームが延長戦に入ってからも引き分けのままPK戦にもつれ込むことに満足せず、失点のリスクを怖れずゴールを奪うために積極的に前に出続けた、その結果でもある。
事実、スペインのミケル・メリーノが119分に決勝ゴールを挙げた場面では、もう少しでPK戦というタイミングであるにもかかわらず、ダニ・オルモがクロスを送り込もうというタイミングで、ペナルティーエリア内にはスペインの選手が4人も詰めており、中央ではドイツのCBペアに対して3対2の数的優位が生まれていた。
イエローカード17枚が飛び交ったという以上に、このドラマチックな結末、そして何よりもその戦術的なレベルの高さ、その中で両チームのワールドクラスたちが見せた個の輝きによって、この試合は記憶されることになるだろう。「事実上の決勝戦」という触れ込みを裏切らない名勝負だった。
文●片野道郎
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つまるところ、この試合において強度の高いフィジカルコンタクトを伴う激しいデュエルが頻発することは、戦術的な必然だったということができる。しかしテイラー主審は、それをコントロールして試合をスムーズに運ぶうえできわめて重要な、序盤のファウルに対するジャッジの「さじ加減」を明らかに誤ってしまった。クロースの最初のファウルに対してイエローカードを出していれば、おそらくその後のゲームコントロールはかなり楽になっていたはずだ。
もうひとつ、後半半ばから延長にかけて出された10枚のイエローカードのうち、半分にあたる5枚(67分のクロース、74分のフェラン・トーレス、100分のカルバハル、110分のロドリ、120+4分のカルバハルの2枚目)は、1対1で抜き去られた相手をあえて後ろから引っ張って止めてカウンターアタックの危機を回避する、いわゆるタクティカルファウル。これも戦術的な要因がもたらしたものだ。
両チームとも、リトリートして自陣に守備ブロックを敷くよりも、積極的に前に出てボールにプレッシャーをかけ高い位置で奪回しようとする守備戦術を採用していることは、すでに見たとおり。これは、ボール周辺における敵味方の密度が高い一方で、その背後には大きなオープンスペースが広がっていることを意味する。ピッチの至る所で生じる1対1のデュエルで相手を抜き去れば、一気に危険なカウンターアタックのチャンスが生まれるというわけだ。
1対1で抜き去られた守備側の選手が、イエローカードという代償をあえて支払ってでも、相手を後ろから倒すタクティカルファウルに訴えざるをえない状況が頻出したのは、まさにそれゆえだ。疲労のためにプレスの強度が下がりピッチ上のスペースが大きくなった後半半ばから延長戦にかけての時間帯はなおさらである。
しかしこれは、両チームが延長戦に入ってからも引き分けのままPK戦にもつれ込むことに満足せず、失点のリスクを怖れずゴールを奪うために積極的に前に出続けた、その結果でもある。
事実、スペインのミケル・メリーノが119分に決勝ゴールを挙げた場面では、もう少しでPK戦というタイミングであるにもかかわらず、ダニ・オルモがクロスを送り込もうというタイミングで、ペナルティーエリア内にはスペインの選手が4人も詰めており、中央ではドイツのCBペアに対して3対2の数的優位が生まれていた。
イエローカード17枚が飛び交ったという以上に、このドラマチックな結末、そして何よりもその戦術的なレベルの高さ、その中で両チームのワールドクラスたちが見せた個の輝きによって、この試合は記憶されることになるだろう。「事実上の決勝戦」という触れ込みを裏切らない名勝負だった。
文●片野道郎
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