専門5誌オリジナル情報満載のスポーツ総合サイト

  • サッカーダイジェスト
  • WORLD SOCCER DIGEST
  • スマッシュ
  • DUNK SHOT
  • Slugger
海外サッカー

【ブカツへ世界からの提言】暴力ってなんだろう? 子どもの尊厳を踏みにじってはいけない――日本の“悪しき伝統”をドイツの指導者はどう見る?

THE DIGEST編集部

2022.06.30

 ドイツの事例でいえば、暴力行為は文句なく即刻レッドカードになる。指導者は最低でも2~3年は活動を禁止にされ、生涯指導者の資格をはく奪という場合もある。保護者や関係者が観戦時に暴力を振るえば、敷地内への立ち入りは間違いなく禁止。クラブ会員であれば、すぐに除名手続きが行なわれるだろう。

 暴言に対しても同様に厳しい。スポーツ関連で起こった事例・事件に関して、ドイツではスポーツ裁判所に判断をゆだねる。試合中に問題が起これば審判から連絡がいく。指導者や保護者による暴力、暴言事件はクラブにそれなりの額の罰金が科されるため、クラブ側も厳しい態度を貫くケースが多い。

 ボランティアコーチとして忙しい時間をやりくりし、チームに関わってくれている指導者にクラブとして多大な感謝とリスペクトの思いがある。それはもちろんだが、だからといって何をやってもいいわけではない。

 近所のサッカークラブでは、熱心に指導しているお父さんコーチがお酒好きで、チームイベントで酔っぱらってしまうというのが理由で、クラブから指導者を続けるのを断られた人もいる。それぐらい子どもを預かる大人として持つべき責任というものは、明確でなければならない。それこそ新しいクラブで指導者をするときには誓約書を交わす。そして、その誓約書には指導者としての心構えというのが明記されている。

 冒頭にも記したが、ドイツだって、暴力問題が起こる場合はある。僕自身そこまで理想論者ではないし、だれもかれもが聖人君主のような指導者をやっているわけがない。クラブや協会にしても、ボランティアで指導者をしている人たちに最先端の指導力を求めているわけでもない。
 
 でも、サッカーを、子どもたちを、大事にしようという思いは共通している。そして、そうあるのが指導者には求められていると多くの人がわかっている。だからだろう。ドイツのどこにでもあるグラスルーツのサッカーで、暴力・暴言まで発展するケースはほとんどなく、仮にあっても、大人が全力で子どもたちを守ろうとする。

 サッカーとともに生きる素晴らしさを知る大人が、子どもたちに楽しさを、さまざまな学びを伝え、仲間とともにプレーする大切さ、勝ち負けだけではない価値を教える。そして人生を通してサッカーを続ける尊さを伝えていくのだ。

 ケンカは仲直りできるが、いじめは仲直りできない。

 そんな話を聞いたことがある。指導者と選手の指導を巡るケースだって同様だ。子どもたちの尊厳を踏みにじっていいなんて絶対にありえない。

文●中野吉之伴

RECOMMENDオススメ情報

MAGAZINE雑誌最新号