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海外サッカー

オランダ戦でイングランドのサウスゲイト監督が得た大きな成功体験とは? 決勝の見どころは「哲学、スタイルが明確なスペイン相手に、どう振る舞うか」【EURO2024コラム】

片野道郎

2024.07.14

 右サイドからの攻撃には、さらなるプラスアルファも組み込まれている。敵陣までボールを運んでポゼッションを確立すると、3バックの最終ラインからカイル・ウォーカーが右の大外を攻め上がって、実質的なウイングのように振る舞うというのがそれだ。右ウイングバックのサカが内に絞って、それに連動する形で2シャドー(フォデン、ベリンガム)のどちらかが中盤に下がるなど、複数のプレーヤーが流動的にポジションを動きながら、2ー3ー5という前がかりな配置でスイスを押し込んで攻勢に立つ場面も見られた。

 スイス戦では、相手の守備ブロックが非常に堅固だったこともあり、危険な場面はそれほど多く作れなかった。しかし、同じ3ー4ー2ー1で戦った準決勝オランダ戦では、攻撃時の流動性がさらに高まって、今までになく人とボールがスムーズに動くようになった。

 ウォーカーはセンターバックと右ウイングバックの2役をこなし、メイヌーとデクラン・ライスが最終ラインに落ちてビルドアップを助けたかと思えば、最前線まで攻め上がって裏の素ぺースに走り込む。フォデンとベリンガムは最終ラインに揺さぶりをかけながら幅広く動き回って仕掛けに絡み、ケインは中盤に下がったり左に流れてスペースを作り、前線の流動性を高める、という具合だ。4ー2ー3ー1では窮屈そうに動いていたタレントたちが、適材適所に収まって本来の持ち味を徐々にではあるがようやく発揮し始めた、という印象である。

 攻撃時には3ー2ー5、時には2ー3ー5という前がかりな配置になる分、ボールロスト時にはカウンターアタックを許すリスクも高まる。しかし、どうやらサウスゲイト監督は、これまでなら許容しなかったであろうこの種のリスクも、攻撃の火力アップと引き換えにあえて(ある程度まで)引き受ける覚悟を決めたようだ。
 
 それは、1ー1で膠着したまま延長戦に突入する可能性が高まった81分、それまで複数の決定機に絡んでいたフォデン、そして絶対的エースのケインをあえて下げ、コール・パーマーとオリー・ワトキンスを投入するギャンブルめいた采配にも表われていた。そのギャンブルが文字通りの大当たりとなって、90分にパーマーのアシストからワトキンスが決勝ゴールを決める結末をもたらしたのだから、これはサウスゲイト監督にとって大きな成功体験になっただろう。

 攻撃の局面においてこれまでにはなかった積極性と流動性を手に入れ、指揮官の采配もリスク回避一辺倒の堅実路線から、勇気を奮って勝利を掴みにいく方向に一歩踏み出した感があるイングランド。スペインとの決勝でもその道をこのまま突き進むのか、それとも、少しでも勝利の確率を高めるために、リスクを最小化する堅実な振る舞いに立ち戻るのか。

 スペインの哲学、スタイル、戦術はすでに明白なだけに、イングランドがどう振る舞うかが、試合の展開を決定づける要因になるだろう。サウスゲイト監督の選択と、そしてそれがもたらす結果は、イングランドはもちろんそれ以外の国々にとっても、今後の戦術的指針に小さくない影響を及ぼすのではないだろうか。その意味でも、絶対に見逃すわけにはいかない一戦である。

文●片野道郎

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