女子テニス元世界ランキング１位の大坂なおみ（27歳／現14位）の元コーチである名将パトリック・ムラトグル氏（フランス／55歳）が英紙『ガーディアン』のインタビューに応じ、およそ10カ月にわたった大坂とのタッグを振り返った。

　元世界女王のセレナ・ウィリアムズ（アメリカ）を長年指導し、23度の四大大会優勝のうち10度の栄冠に導いた実績を持つムラトグル氏は、昨年９月から今年７月末まで大坂を指導。その期間に大坂は下部大会「サン・マロ・オープン35」（フランス・サン・マロ／WTA125）でクレー初タイトルを獲得したものの、ツアーレベルでのベスト８以上進出は準優勝した「ASBクラシック」（ニュージーランド・オークランド／ハード／WTA250）のわずか１大会にとどまり、最高峰の四大大会でも今年の全豪オープンとウインブルドンでの３回戦進出と思うような結果を残せなかった。

　今回のインタビューでムラトグル氏は自身と大坂が離別した経緯をこう説明している。

「結果が十分ではなかったが、それは当然のことだと思う。たくさん良いことをやっても、コーチングにおいて一つでもコントロールできないことがあれば、それが全てを台無しにしてしまう。彼女自身は大きく成長していたし、私も毎日その進歩を見ていた。競技への考え方も素晴らしかったと思う。しかし試合では十分に結果を出せず、それが全てを壊してしまった」
  　ただそれはあくまでも自分の指導力の問題だったと同氏は振り返る。また自身が過去に偉大なセレナを指導した経験やそこで積み上げた輝かしい実績が、逆に大坂にとっては大きなプレッシャーとなり、結果的に不振につながってしまったのではないかと持論を展開した。

「自分が十分な仕事をしていれば結果は出ていたはず。私がセレナと長年タッグを組んでいたことを考えると、大坂からしたら私をコーチに持つことが少し重荷になっていたのかもしれない。実際に彼女は公の場でもそのことを何度か口にしていたが、私はその重圧を取り除く方法を見出してやれなかった」

　既報の通り大坂はムラトグル氏との契約解消後に元１位のイガ・シフィオンテク（ポーランド／現２位）らを指導した実績を持つトーマス・ビクトロウスキ氏（ポーランド／44歳）をチームに招聘。直後のモントリオール（カナダ／WTA1000）で準優勝すると、先日の全米オープンでも産休からの復帰後初となる四大大会ベスト４進出を果たし、世界ランキングでも約３年８カ月ぶりのトップ15復帰を遂げた。これを受けてムラトグル氏は大坂への称賛の言葉を交えながら次のように語った。

「私と別れてから、彼女は『心が軽くなった』と感じたのだろう。プレッシャーから解放され、自由にテニスを表現できるようになったと思う。とはいえ彼女との間にわだかまりはない。彼女は素晴らしいプレーヤーだ」

　自身を省みながらも、大坂へのリスペクトを忘れなかったムラトグル氏。今回のコメントからは名将としての矜持と、27歳の今後を陰ながら応援したいという気持ちがにじみ出ていた。

文●中村光佑

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