佳境を迎えている男子テニスツアー公式戦「ロレックス上海マスターズ」（10月１日～12日／中国・上海／ハードコート／ATP1000）。今大会の台風の目となっているのが、世界で２番目に国土面積の小さいモナコ出身の26歳、バレンティン・バチェロット（世界ランキング204位）だ。

　おそらく彼の名前を初めて聞いた人がほとんどだろう。米テキサスA&M大学でカレッジテニスを経験し、2021年の大学卒業後にプロに転向したバチェロットは、これまでにチャレンジャー（下部大会）４勝を挙げているが、自己最高位は昨年６月に記録した110位。今季は主戦場の下部大会でも目立った結果を残せておらず、現在のランキングは200位台となっている。

　そんな無名の26歳が、初出場の上海で怒涛の快進撃を演じている。予選２試合を勝ち抜き、本戦１回戦では格上のラスロ・ジェレ（セルビア／同82位）をストレートで撃破。２回戦では今季ツアー４勝を挙げているアレクサンダー・ブブリク（カザフスタン／同17位）を破ると、３回戦はトマーシュ・マハーチュ（チェコ／同23位）の途中棄権で勝利し、４回戦では元21位のタロン・フリークスポール（オランダ／同31位）を4-6、7-6(1)、6-4で撃破して四大大会に次ぐマスターズ1000大会で初のベスト８進出を果たしていた。

　そして現地９日に実施された準々決勝では、今年５月の「バルセロナ・オープン」（スペイン／クレーコート／ATP500）でツアー５勝目を挙げた22歳で元世界４位のホルガー・ルネ（デンマーク／同11位）と対戦し、2-6、7-6(4)、6-4の逆転で見事金星をゲット。わずか２ゲームしか奪えずに第１セットを落としたバチェロットだったが、第２セットをタイブレークの末に奪取してセットオールに持ち込むと、ファイナルセットでは第６ゲームから３ゲームを連取し、２時間59分にも及ぶ死闘をものにした。
  　この結果男子選手史上２番目に低いランキングでのマスターズベスト４進出を果たすとともに、男女を通じてツアー大会で４強入りした初のモナコ人選手となったバチェロットは、大会後にキャリア初のトップ100入りが確定。それを踏まえ、ルネ戦後のインタビューでは次のように喜びを語った。

「３回戦での勝利だけでも非常に大きな意味があったが、今日の勝利はそれ以上の価値がある。今日はマッチポイントが来た時に、トップ100入りのことを考えないようにするのが大変だった。まだ通過点に過ぎないけど、この結果は本当に信じられない。次の準決勝が待ち切れないよ。今はただただ幸せで、まさに夢を生きている気分だ」

　ここでもう一つ覚えておきたい話がある。実はバチェロットにはあるテニス選手の従兄弟がいるのだが、その人物こそ、今大会にノーシードで出場しているフランス出身のアルテュール・リンダークネシュ（同54位／30歳）である。

　ちなみにリンダークネシュは現地８日の４回戦でイリ・レヘチュカ（チェコ／同19位）を6-3、7-6(5)で下し、一足先にベスト８進出。それにバチェロットが続いた形となった。なお、バチェロットは準決勝で四大大会24勝を誇る元世界１位のノバク・ジョコビッチ（セルビア／現５位）と対戦する。

文●中村光佑

【動画】バチェロットが難敵ルネを破り４強入りを決めた上海マスターズ準々決勝ハイライト

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