「正直、この質問が一番困りますね。得意じゃないですね、“何年後シリーズ”」
小さく抗議するような苦味を笑みに滲ませて、彼がそう言ったのは5年前のことだった。
当時25歳。世界ランキングは5位。前年の全米オープンで準優勝し、トップ10を定位置とし始めた彼に「2年後、あるいは5年後のビジョン」を尋ねた時、返ってきた言葉である。
「遠くを見すぎない」という視座は、アスリート・錦織圭の哲学や、人生観そのものだったかもしれない。
「子どものころから1位を目指していたけれど、『そのためには何をしなくてはいけない』という考え方はあまりしなかったですね。先をそんなに見ないで、ちょっとずつ前のゴールをクリアしようとしていました。プロになって少しずつ考えたことではあるけれど、それも50位、20位、そして10位と言う感じだったので。そんなに『1位になるためには』……というのはなかったです」
大きな目標を定めながらも、目的地までの距離を測り逆算するのでなく、今より一歩でも先に進めば、いずれは地平の彼方まで行けるという加算的な思考法でゴールを目指すのが、錦織圭の流儀である。そんな彼が“何年後シリーズ”を不得手とするのは、ある意味で必然だった。
ただその彼が、自発的に口にした一つのマイルストーンが、「30歳」という地点である。
「どうなんだろな……30って自分の中では、ちょっと年だなというか、大丈夫かなというのがあります。身体とかモチベーションとか、色んな意味でまだ見えないので、不安なところがありますね。でも今、現実を見ても32歳でキャリアハイを迎えるような選手もいますし、なってみないと分からないですが」
5年後の自身の身体に漠然とした不安を抱える彼は、おぼろげに描く“引退観”についても言及した。
「結果とかいうより、身体がついてこなかったらやめるのかなという。ケガもあったし、身体もそんなに強い方ではないし。
身体が強くないという思いは、一生消えないと思います。改善はどんどんしているけれど……なんでですかね。
ただどんな形でやめるにしろ、悔いは残る気がします。グランドスラム全部とって世界1位になって、史上最高の記録をどんどん出しまくったら、それはそれで満足だろうけれど……そうじゃない限り、たぶん……」
その時から4年の年月が経った2019年5月――。
30歳の誕生日を半年後に控え、かつて「まだ見えない」と言っていたあの頃の未来へと近づきつつあった錦織は、25歳の頃に漠然と描いた引退観とは異なる今を生きていた。
小さく抗議するような苦味を笑みに滲ませて、彼がそう言ったのは5年前のことだった。
当時25歳。世界ランキングは5位。前年の全米オープンで準優勝し、トップ10を定位置とし始めた彼に「2年後、あるいは5年後のビジョン」を尋ねた時、返ってきた言葉である。
「遠くを見すぎない」という視座は、アスリート・錦織圭の哲学や、人生観そのものだったかもしれない。
「子どものころから1位を目指していたけれど、『そのためには何をしなくてはいけない』という考え方はあまりしなかったですね。先をそんなに見ないで、ちょっとずつ前のゴールをクリアしようとしていました。プロになって少しずつ考えたことではあるけれど、それも50位、20位、そして10位と言う感じだったので。そんなに『1位になるためには』……というのはなかったです」
大きな目標を定めながらも、目的地までの距離を測り逆算するのでなく、今より一歩でも先に進めば、いずれは地平の彼方まで行けるという加算的な思考法でゴールを目指すのが、錦織圭の流儀である。そんな彼が“何年後シリーズ”を不得手とするのは、ある意味で必然だった。
ただその彼が、自発的に口にした一つのマイルストーンが、「30歳」という地点である。
「どうなんだろな……30って自分の中では、ちょっと年だなというか、大丈夫かなというのがあります。身体とかモチベーションとか、色んな意味でまだ見えないので、不安なところがありますね。でも今、現実を見ても32歳でキャリアハイを迎えるような選手もいますし、なってみないと分からないですが」
5年後の自身の身体に漠然とした不安を抱える彼は、おぼろげに描く“引退観”についても言及した。
「結果とかいうより、身体がついてこなかったらやめるのかなという。ケガもあったし、身体もそんなに強い方ではないし。
身体が強くないという思いは、一生消えないと思います。改善はどんどんしているけれど……なんでですかね。
ただどんな形でやめるにしろ、悔いは残る気がします。グランドスラム全部とって世界1位になって、史上最高の記録をどんどん出しまくったら、それはそれで満足だろうけれど……そうじゃない限り、たぶん……」
その時から4年の年月が経った2019年5月――。
30歳の誕生日を半年後に控え、かつて「まだ見えない」と言っていたあの頃の未来へと近づきつつあった錦織は、25歳の頃に漠然と描いた引退観とは異なる今を生きていた。