海外テニス

完全に「対策」され、錦織無念の早期敗退。落胆を押し隠して紡いだ言葉は…

内田暁

2019.09.01

錦織がオーストラリアの新鋭デミノーに敗退した。写真:山崎賢人(スマッシュ写真部)

全米オープン男子シングルス3回戦/8月30日(現地時間)
錦織圭(JPN)2-6 6-4 6-2 3-6 A・デミノー(AUS)

 錦織のストロークが本調子にほど遠いことは、最初の数ゲームですでに明らかだった。フレームショットに始まり、フォアがことごとく狙ったコースを逸れていく。いきなりブレークを許すと、続くサービスゲームも4度のデュースの末に落とす。相手の連続ダブルフォールトで僥倖的なブレークも得るも、結果的に調子の上がらぬまま第1セットは2-6で失った。

 高校球児のような短髪も初々しい童顔ながら、コート上で燃やす激しい闘争心から"デーモン"のニックネームを持つデミノーは、確固たる決意を持って、この一戦のコートに立っていたという。

 昨年の全米オープンでは、3回戦でチリッチ相手に2セットを先取しながら逆転負けを喫した、拭いきれぬ悔いの記憶がある。

「去年も同じ状況にいた。自分に力はある。上位勢を押しのけて、グランドスラムの2週目に勝ち進みたい」

 その情熱を胸に、デミノーは錦織に挑んでいた。スピードと巧みなショットメイキングを武器とする錦織の姿に、デミノーは幼少期からある種の畏敬の視線を向けてきたとも言う。

「ケイは、僕が子どもの頃からプレーを見てきた選手の一人。ボールの威力を吸収し広角に打ち分ける能力には、ずっと驚かせれてきた」

 だからこそデミノーの頭には、錦織のプレーが焼き付いていたのだろう。さらに彼が師と仰ぎ見るヒューイットには、錦織との2度の対戦と勝利がある。
「試合前には、もちろん自分の陣営と話をしゲームプランを立てていた」というデミノーは、その具体的な内容は隠しながらも、心掛けていた幾つかの要点は明らかにした。

「一瞬でも集中力を切らしてはいけない。もし気を緩めたら、ケイは一気に攻めてくる。まずは自分のサービスゲームを確実にキープしていくこと。そしてリターンゲームでは、可能な限り多く打ち返してプレッシャーをかけ、わずかなチャンスを狙っていく。ボールを可能な限り深く打ちこむ。少しでも浅くなれば、決められることはわかっているから」

 そのデミノーの集中力の高さは、錦織が時折放つ絶妙なドロップショットにも出足鋭く反応し、自分のポイントへと変える姿からも伺える。基本的には、攻める錦織対守るデミノーの構図ではあるが、錦織のボールが短くなれば、デミノーはすかさず攻撃に転じた。

 一方の錦織は、予想を上回るデミノーのプレーに、精神的な重圧を感じていたという。

「驚いたのが、ディフェンス時の球の質が良かったこと。振られた時はもう少し浅い球が返ってくるかと思ったが、しっかり深い球を返してきていた。そこが想像と違うところでした」

 錦織のミスは、デミノーの高質なプレーに引き出された側面もあったようだ。第3セットは、無理に攻めず長いラリーで優勢に立つ時間帯もあったが、「自分から攻めるのが理想だった」との思いからか、第4セットでは再びミスが早くなった。決まったと思われるドロップショットを拾い、届かないと思われるボールに飛びつきボレーを決めるデミノーの全力プレーは、見る者をも味方につける。劣勢のなか終盤に向かうにつれミスの増えた錦織が、最後もフォアをネットにかけ、酷暑の試合は幕引きとなった。