海外テニス

天国のコーチに恩返し。日本で鍛えた中国のワン・チャンが、自身初のグランドスラム8強入り

内田暁

2019.09.03

今年7月に亡くなったカリスマコーチの最後の教え子が、大舞台で世界2位を破る金星を挙げ準々決勝へ。写真:山崎賢人(スマッシュ写真部)

全米オープン女子シングルス4回戦/9月1日(現地時間)
ワン・チャン(CHN)6-2 6-4 A・バーティー(USA)

 勝利に至る最後の一歩を、詰め切るには苦しく長い時間を要した。

 世界ランキング2位のバーティーから第1セットを6-2で奪い、第2セットもブレークで先行する。だが4-3からのサービスゲーム、そして5-3からのゲームでは、緊張からかミスも目立った。それでも複数回のデュースの末に、最後は4度目のマッチポイントで、ゴールラインのテープを切る。

 中国のワン・チャンが27歳にして、初のグランドスラムベスト8に到達した。

 今や、大坂なおみに次ぐアジア・ナンバー2に成長したワン・チャンの、キャリアの始点は日本だと言える。14歳の頃から中国国内のITF大会を回り始めた彼女が、初めて日本のトーナメントに出場したのが16歳の時。

「その頃、中国にはまだプロのトーナメントが少なかった。日本にはたくさんあるので、ここを拠点としたいと思った」

 以降彼女は4年間、東京を拠点として実戦経験を積んでいく。攻撃的かつ安定したストロークは、その当時の産物だろう。

 最終ランキングを2017年に45位、2018年には20位と上げ、この夏にはキャリア最高の14位に至ったワン・チャンの、躍進の契機は2015年に訪れた。
 昨年9月の花キューピット・オープン(広島)で、彼女に「何が急成長の鍵か?」と問うた時、間髪入れず「コーチ」との答えが帰ってきた。

「今のコーチには、3年前から師事している。それが良くなった最大の理由。彼は、試合をどう組み立てれば良いのかを、私に教えてくれた。例えば、ゲームカウント4-4のデュースの時には、どんなプレーをすればよいか、どうポイントを組み立てればよいかなど、とても細かく教えてくれる」。

 彼女のテニス観を一変したというコーチの名は、ピーター・マクナマラ。70~80年代に単複で活躍し、コーチとしてはフィリポ―シスやディミトロフをトッププレーヤーに導いた彼は、今年7月に惜しまれつつ癌で世を去る。その彼の最後の教え子が、2015年から帯同したワン・チャンだった。

「心掛けているのは攻撃的なテニス。理想のプレーは、ミスをしないこと」という両立の困難な目標を、名伯楽の知恵を得て融合した末に、到達した全米オープンベスト8のステージ。待ち受けるのは、母国での24度目のグランドスラム優勝を渇望するセレナ・ウィリアムズ。

 長く中国の2~3番手だったワン・チャンが、キャリア最高の舞台に挑む。

取材・文●内田暁
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