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海外テニス

【記憶に残る試合】89年全仏男子決勝/ケイレンに苦しみながら勝機を見出した最年少優勝のマイケル・チャン

スマッシュ編集部

2020.06.07

チャンの17歳3カ月でのグランドスラム優勝は現在も最年少記録である。写真:THE DIGEST写真部

チャンの17歳3カ月でのグランドスラム優勝は現在も最年少記録である。写真:THE DIGEST写真部

 今日、2020年6月7日に、全仏オープンの男子決勝の試合を見られないのは寂しいものだ。そこで、ローランギャロスに思いを馳せ、記憶に残っている印象深い試合を思い出そう。ここでは1989年のチャン対エドバーグの当時の記事を紹介する。

   ◆      ◆   ◆

 4回戦でレンドル(4時間37分)、準々決勝でアジュノール(3時間12分)、準決勝でチェスノコフ(4時間5分)、そして決勝でエドバーグを(3時間41分)。173センチの小さな大選手は、長い長い道のりをついに踏破した。

「この2週間は、一生忘れられない1ページになるでしょう」。あがって絶句してしまわないよう、あらかじめ書いておいたメモを読みながらのウイナーズ・スピーチ。「ホームクッキーを焼いてくれた母をはじめとする家族、友人、コーチ、そして誰よりもジーザス・クライストに感謝したい」

 88年10月に洗礼を受けたクリスチャンは、「優勝できるなんて、まったく思っていなかった。とくかくこのポイント、このポイントと思ってやっただけ。本当に夢のようです」とあくまでも謙虚だ。

 試合中も、常に沈着冷静。どんな苦しい状況にあっても相手にそれと知らせず、「何を考えているのかわからない」と百戦錬磨の先輩たちを気味悪がらせた、

 ついたあだ名が「東洋のずる賢い鼠」。レンドル戦では、腹部と太もものケイレンでまともにサーブも打てない状態ながら、中ロブ一辺倒と思わせておいていきなり強烈なアプローチ&ボレー。ケイレンを防ぐためとはいえ、タイムオーバーで警告を受けるまでベースラインの後ろで水をガブ飲みし、レンドルをじらしにじらした。
 
 さらには、世界ナンバー1の選手をおちょくるかのように、アンダーサーブを放ち、マッチポイントのレシーブではサービスライン付近まで前進して構える……。もちろんその大胆さも「相手の集中力を乱すにはあれしかなかった」と計算ずくだ。

 決して奇をてらったわけではなく、ケイレンを再発しないようにエンドチェンジの間も座らずに立ったままでいたように、またそんな余裕すらもない。

「どの筋肉に負担をかけても、すぐケイレンが起きただろう。正直言って、もうこれ以上プレーできないと思ったこともあった」

 勝つためには何をすべきかを知っている、まさに天性の勝負師。返球が浅くなるとすかさず叩いてネットに出る絶妙の勝負勘は、決勝までついに鈍ることがなかった。また、88年2月のプロ転向初戦で胃痛に泣くと、「チーズバーガーが悪かった」ときっぱりファストフードをやめてダイエットを自分に課した意思の強さ。

「長い試合を戦い抜くためには、安定したエネルギーが必要だからね」。中国系二世の細い目が、不敵に笑った。

◆      ◆   ◆

【プロフィール】
マイケル・チャン/Michael Chang(USA)
1972年生まれ。ATPランキング最高位2位(96年9月)。グランドスラム通算1勝(RG:89年)。台湾系アメリカ人。男子テニス選手としては身長175センチと小柄であるが、卓越したフットワークを武器に世界のトップで活躍した。17歳3カ月での全仏優勝は今なお男子のGS最年少記録であり、アジアにルーツを持つ男子選手として唯一のGS優勝者。その後も全豪・全仏・全米で準優勝したが、2度目のGS制覇は成らなかった。13年末からは、錦織のパートタイムコーチを務める。

構成●スマッシュ編集部
※スマッシュ1989年8月号の記事を加筆・修正

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