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「人生のアップダウンがあった中での1位がすごい」~アガシに影響を受けた伊藤竜馬【プロが憧れたプロ|第1回】

赤松恵珠子(スマッシュ編集部)

2020.07.23

伊藤竜馬(右)は、アガシ(左)に憧れてリターンが好きになったという。写真左/(C)GettyImages、写真右/山崎賢人(THE DIGEST写真部)

 現在、プロとして活躍している選手も現役を引退してコーチをしている人も、小さい頃はテレビの中で躍動する選手に憧れていたはずだ。そして、彼らのプレーをマネしたり参考にして、自分のテニスを作り上げていったのだろう。【プロが憧れたプロ】シリーズでは、そんな子ども時代に憧れ、ルーツとなった選手を紹介していく。第1回は伊藤竜馬プロだ。

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 全国小学生大会でバンダナをして元気に動き回り、強烈なショットを放つ少年がいた。伊藤竜馬である。彼がテニスを始めたのは小学3年生で、その頃テレビでよく見たのは、アンドレ・アガシとピート・サンプラスだったという。

「サンプラスもすごく強くて好きでしたが、アガシは人生のアップダウンがあった中での1位だったので、すごいなと思って憧れていました」。アガシは1位を経験した後、1997年には1度141位までランキングを落とし、再び1位に返り咲いた。そのキャリアに小学生ながら引き付けられたとは、なかなか憎い理由である。

 もちろん、プレーの面でも際立っていた。サンプラス、ゴラン・イバニセビッチ、パトリック・ラフターなど、サーブ&ボレーやサービスを軸にする選手が多い中、「1人リターンの選手だった」のも、惹かれた理由だ。

 小学生の頃のバンダナもアガシのマネであったように、伊藤はプレーもマネをしていた。「ベースラインでパンパンとライジングで引っぱたくアガシのイメージで打っていました。アガシの影響でリターンが好きだったのかもしれません。今は自己流になっていますけど(笑)」

 アガシという土台の上に、自分のスタイルを加えていったのだ。時代が変わり、現代のテニスに適応するためには、変化していくことも当然求められることである。
 
 そんな憧れだったアガシの引退試合を、全米オープンジュニアの派遣選手として会場に行っていた伊藤は、現地で観戦することができた。「アガシを生で見たのは初めてで、音がいかつかった。テレビとはまったく迫力が違いました」と、少年の頃に戻ったように、生き生きと目を輝かせる。

 圧倒的なカリスマ性を持つアガシに相応しく、引退試合は感動的で、「アメリカならではのすごい数のファンにも鳥肌が立ちました」。スタンディングオベーションに鳴りやまない拍手。その中に伊藤もいたのだ。

 それから6年後。伊藤自身も2012年全仏オープンのセンターコートで、アンディ・マリーと対戦し、「イト(ito)」コールの声援を受けた。アガシに憧れた少年は、「ドラゴンショット」を携えて、観客を魅了するまでに成長した。

取材・文●赤松恵珠子(スマッシュ編集部)

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