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【大坂なおみ・全米テニス名勝負集3】飛躍の予感。ブレーク直前の19歳の大坂が前年優勝者のケルバーを破る!/2017年1回戦

内田暁

2020.09.03

ケルバーに対する勝利は、大坂を真のトッププレーヤーへと成長させるきっかけとなった。写真:THE DIGEST写真部

 全米オープンテニス開催に合わせて、月刊スマッシュの過去のリポートの中から、大坂なおみの「全米名勝負」をピックアップしてお送りする。3回目は2017年に大坂が演じたビッグアップセット、対ケルバー戦だ。

   ◆   ◆   ◆

 ケルバーのショットが乾いた音を響かせネットを叩いた時、彼女はふわりと笑みを浮かべ、勝利はさも当然といった様子で、小さくガッツポーズを握りしめただけだった。

「勝ったらラケットを放り投げるなどして、もっと大喜びすると思ってたんだけれど……」
 子どもの頃から夢見た、全米オープンセンターコートでの勝利――。その瞬間が予想より控え目に終わったことを、彼女は「残念」だと小さく笑った。

 本人いわく「顔の筋肉が動きにくい」がため感情が表に出にくい大坂は、その内に豪胆と小心、大胆さと繊細さなどの背反する気質を、絶妙なバランスで内包しているアスリートだ。ケルバーとの対戦を控え「勝つチャンスが自分にも十分ある」と断言し、「大きなスタジアムが大好き」と公言した大坂だが、前年優勝者が待つセンターコートに向かう時、「ものすごく緊張していた」ことを認めた。

 しかしコート上の彼女は、そんな内面での葛藤を一切周囲に見せない。「今日は積極的に使っていこう」と決めていたフォアを伸びやかに振り切り、ケルバーのバックを攻めていく。
 
 第5ゲームではブレークポイントに面するが、強打で押し込み最後はバックのスイングボレーで切り抜ける。そしてこの危機を脱した頃から、彼女のプレーは一層豪胆さを増していった。

 第8ゲームを相手のダブルフォールトに乗じブレーク。続くゲームでは再びブレークの危機を迎えるが、ケルバーが得意とするフォアの逆クロスをカウンターで打ち返し、2万人から大歓声を引き出すパッシングショットを叩き込む。この一撃で加速した大坂は、第1セットを奪い去ると、第2セットもブレークスタートの電車道。落胆と焦燥を隠せぬケルバー相手に、瞬く間にゲームカウント5-1とリードを広げた。

 しかしこの時、昨年のキーズ戦で同じスコアから逆転負けを喫した悪夢が、彼女の脳裏をよぎったという。「あの時と似た怯えが湧き上がってきた。最後は、緊張していてやっとサービスを返したような状態だったし、長いラリーはしたくなかった」。前年優勝者を圧倒していた人とは思えぬ虚心さで、大坂が認める。

「だから、最後に彼女(ケルバー)がミスしてくれた時は、ホッとした」
 派手な喜びが飛び出さなかったのは、自信からではなく、安堵のため。その安堵と共に手にしたのは、悪夢への決別と掛け替えのない勝利。自分の弱さをも認める強さを手に、19歳が快進撃への一歩を大きく踏み出した。

◆2017年1回戦
大坂なおみ[6-3 6-1]アンジェリーク・ケルバー(6)

取材・文●内田暁

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【動画】17年全米、ケルバーに対する大坂の衝撃的な勝利!