振り返ったノバク・ジョコビッチの表情が、彼の胸中を何より端的に物語ってはいただろう。
全米オープン4回戦、ジョコビッチ対パブロ・カレノブスタ戦の第1セット。5ゲームずつ分けあった第11ゲーム15-40の局面で、ジョコビッチが放ったやや甘いドロップショットは、相手に鋭角に打ち返されウイナーとなった。
苛立ち紛れに、ポケットから取り出したボールを、後方に打つジョコビッチ。
その時、うめき声と共に、フェンス前に立っていた女性の線審が倒れた。ジョコビッチが打ったボールが、彼女の喉を直撃したのだ。
このアクシデントがジョコビッチをも驚かせたのは、目を丸くし、すぐに謝罪に歩み寄った姿からも明らかだった。だが、コート上に現れたトーナメントレフリーは、ジョコビッチ当人も交えスーパーバイザーらと約7分協議した末に、ジョコビッチに失格を言い渡す。今季、ここまで26勝だった世界1位の今季初黒星は、まさかの形でレコードブックに記された。
この処分が下されてからおよそ30分後、大会側は、以下のような声明文を発表する。
「グランドスラムのルールブックに記されている“故意に、もしくは意図がなくとも、軽率に打ったボールが事故を引き起こした場合”に相当するとし、大会はノバク・ジョコビッチを2020年USオープンからの失格に処した。これにより、当大会で獲得したランキングポイントは失効。賞金は罰金として没収し、追加の罰金も課されるだろう」
また、トーナメントレフリーのソーレン・フリーメル氏は、現地取材が許されている数少ない記者らの取材に応じ、次のように状況を説明したという。
「事態が起きた時、私はオフィスにいて何が起きたか直接見てはいなかったので、まずはスーパーバイザーと主審から説明を受け、その後ノバク・ジョコビッチからも話を聞いた。
厳然たる事実は、ノバクが苛立って軽率にボールを打ったこと。そして、線審の喉をボールが直撃したことであり、線審は苦しんだこと。それを受け、ノバクを失格に処した」
ジョコビッチは故意でなかったことを訴え、そのことはレフリーたちも承知したという。ただ、「彼がボールを軽率に打ち、それが線審に当たったのは事実。これはルールでは失格に値する危険行為とされている」とし、「もし故意だとしたら、あれほど長い話し合いも必要とせず処分が下された」とも説明した。
試合後、会見を行なうことなく会場を後にしたジョコビッチは、後に自身のソーシャルメディアで、「線審に対し深く謝罪します。状態は回復してきたと聞いて、本当に安心しました」とまずは陳謝。続けて、「この一件を、選手、そして人間として成長し進化する糧とします」と綴った。
他の選手たちの反応も、ジョコビッチの行為を「故意ではないのは明らかで、不運だった」と見なす向きが大半を締めている。
思わぬ形で勝利を得ることとなったカレノブスタは、「自分にとってもショックな出来事だ」とした上で、「ノバクが故意にボールをぶつけるはずがない。そんなことをしようとする選手はいない。もちろんやってはいけないことだが、すごく不運だったと思う」とコメント。
17歳の時に同じような状況で主審にボールをぶつけたことのあるデニス・シャポバロフも、「僕も以前に同じことをやってしまったので、ノバクが今どんな気分か良くわかる」と述懐する。
ジョコビッチが失格となったセンターコートで、この日最後の試合を戦った大坂なおみは、「今回の事態は、選手たちにとっての良い警告になったと思う」と、教訓として受け止めた様子だった。
これら、ジョコビッチに対しやや同情的な選手の反応に比して、2016年のATPツアーファイナルズで、ジョコビッチが客席にボールを打ち込んだ際にもその行為を糾弾した英国メディアは、手厳しい。
『BBC』のウェブ版は、「彼はツアーファイナルズで失格していても不思議ではなかった」と言及。『ガーディアン』紙のウェブ版も、16年全仏でジョコビッチが投げたラケットが線審の近くに飛んでいったことに触れ、「あの時の彼は“ラッキーだった”」と記述した。
文・構成●内田暁
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全米オープン4回戦、ジョコビッチ対パブロ・カレノブスタ戦の第1セット。5ゲームずつ分けあった第11ゲーム15-40の局面で、ジョコビッチが放ったやや甘いドロップショットは、相手に鋭角に打ち返されウイナーとなった。
苛立ち紛れに、ポケットから取り出したボールを、後方に打つジョコビッチ。
その時、うめき声と共に、フェンス前に立っていた女性の線審が倒れた。ジョコビッチが打ったボールが、彼女の喉を直撃したのだ。
このアクシデントがジョコビッチをも驚かせたのは、目を丸くし、すぐに謝罪に歩み寄った姿からも明らかだった。だが、コート上に現れたトーナメントレフリーは、ジョコビッチ当人も交えスーパーバイザーらと約7分協議した末に、ジョコビッチに失格を言い渡す。今季、ここまで26勝だった世界1位の今季初黒星は、まさかの形でレコードブックに記された。
この処分が下されてからおよそ30分後、大会側は、以下のような声明文を発表する。
「グランドスラムのルールブックに記されている“故意に、もしくは意図がなくとも、軽率に打ったボールが事故を引き起こした場合”に相当するとし、大会はノバク・ジョコビッチを2020年USオープンからの失格に処した。これにより、当大会で獲得したランキングポイントは失効。賞金は罰金として没収し、追加の罰金も課されるだろう」
また、トーナメントレフリーのソーレン・フリーメル氏は、現地取材が許されている数少ない記者らの取材に応じ、次のように状況を説明したという。
「事態が起きた時、私はオフィスにいて何が起きたか直接見てはいなかったので、まずはスーパーバイザーと主審から説明を受け、その後ノバク・ジョコビッチからも話を聞いた。
厳然たる事実は、ノバクが苛立って軽率にボールを打ったこと。そして、線審の喉をボールが直撃したことであり、線審は苦しんだこと。それを受け、ノバクを失格に処した」
ジョコビッチは故意でなかったことを訴え、そのことはレフリーたちも承知したという。ただ、「彼がボールを軽率に打ち、それが線審に当たったのは事実。これはルールでは失格に値する危険行為とされている」とし、「もし故意だとしたら、あれほど長い話し合いも必要とせず処分が下された」とも説明した。
試合後、会見を行なうことなく会場を後にしたジョコビッチは、後に自身のソーシャルメディアで、「線審に対し深く謝罪します。状態は回復してきたと聞いて、本当に安心しました」とまずは陳謝。続けて、「この一件を、選手、そして人間として成長し進化する糧とします」と綴った。
他の選手たちの反応も、ジョコビッチの行為を「故意ではないのは明らかで、不運だった」と見なす向きが大半を締めている。
思わぬ形で勝利を得ることとなったカレノブスタは、「自分にとってもショックな出来事だ」とした上で、「ノバクが故意にボールをぶつけるはずがない。そんなことをしようとする選手はいない。もちろんやってはいけないことだが、すごく不運だったと思う」とコメント。
17歳の時に同じような状況で主審にボールをぶつけたことのあるデニス・シャポバロフも、「僕も以前に同じことをやってしまったので、ノバクが今どんな気分か良くわかる」と述懐する。
ジョコビッチが失格となったセンターコートで、この日最後の試合を戦った大坂なおみは、「今回の事態は、選手たちにとっての良い警告になったと思う」と、教訓として受け止めた様子だった。
これら、ジョコビッチに対しやや同情的な選手の反応に比して、2016年のATPツアーファイナルズで、ジョコビッチが客席にボールを打ち込んだ際にもその行為を糾弾した英国メディアは、手厳しい。
『BBC』のウェブ版は、「彼はツアーファイナルズで失格していても不思議ではなかった」と言及。『ガーディアン』紙のウェブ版も、16年全仏でジョコビッチが投げたラケットが線審の近くに飛んでいったことに触れ、「あの時の彼は“ラッキーだった”」と記述した。
文・構成●内田暁
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