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「ファイナルセットは、私の十八番。分析タイムのスタートだから」大坂なおみの“発言”で振り返る全米名シーン【2019年全米1回戦】

内田暁

2020.09.10

初めてディフェンディングチャンピオンとして迎えたグランドスラム。様々な重圧の下で戦った。(C)Getty Images

 全米オープンで2度目の戴冠を狙う大坂なおみ。ここでは、彼女自身が同大会で残した「言葉」にフォーカスし、名シーンを振り返っていこう。第5回は、スリルに満ちた展開を制した2019年大会1回戦後の発言だ。

    ◆    ◆    ◆

 ベンチに深く腰を沈めると背をまるめ、両手で頭を抱えてじっと下を凝視する――。

 マッチポイントを握りながらも取り切れず、タイブレークの末に第2セットを落とした後の、チェンジオーバーでの光景。大坂なおみの姿は深く落胆しているようにも、あるいは外界を遮断し、集中力を高めようとしているようにも見えた。
 
 そうして迎えた、ファイナルセット。
 コートに立つ大坂は、ポイントを奪っても落としても表情を変えず、淡々と次のプレーへと向かっていく。第3ゲームで瀕したブレークの危機をサービスで切り抜けると、続くゲームはリターンから攻め、ブレークに成功した。

 その次のゲームでもブレークポイントを握られるが、やはりここでもエース級のサービスを連発し、最後の山場を凌ぎきる。最後はバックの強打を叩き込み、ディフェンディングチャンピオンとして迎える初のグランドスラムで、初戦勝利をつかみとった。

 第3セットを迎えた時、ベンチに座る大坂の胸中は平静で、両手で抱えられた頭の中を巡っていたのは、いかに勝利をつかむかの算段だったという。
 
「ファイナルセットは、私の十八番。分析タイムのスタートだから」。

 果たして分析したその成果は、第1セットで14、第2セットでは28を数えたエラーが、第3セットでは8にまで減少した数字に映し出される。「とても緊張した」ままに戦い続けた初戦ではあったが、ファイナルセットは試合を通じ、最も平穏な精神状態でプレーできていたようだ。

 いつもなら、最初の数ゲームで払いのけられるその緊張が抜けないなか、大坂の脳裏をよぎったのは、2017年の全米オープン初戦……時のディフェンディングチャンピオンのケルバーを、自らが破った一戦だった。その時のケルバーがいかにナーバスだったか、当時19歳の大坂には見えていて、そして彼女は、挑戦者である特権を生かして勝利した。

 だからこそ、立場を変え自身がディフェンディングチャンピオンになった今、彼女は可能な限り、自身の硬さを相手に隠す。同時に、今や自分と戦う相手は常に「チャレンジャー」である事実に、不思議な感慨も覚えていたという。

 この数年の、"挑戦者"から"女王"へと変遷する自身の旅を、彼女は「どんな結末を迎えるかは、私にも分からない書きかけの本のようなもの」だと形容した。その本の、ここまでの章にタイトルをつけるなら、それはずばり『大どんでん返し』。「みんなが、つい続きが読みたくなるようなツイストが待っているの」と、彼女はいたずらっぽく笑った。

 ディフェンディングチャンピオンとして挑む初のグランドスラムの初戦は、大どんでん返しとまでは言わないまでも、先の読めないスリルに満ちた筋書きだった。

◆2019年1回戦
大坂なおみ[6ー4、6-7(5)、6-2]アナ・ブリンコワ

取材・文●内田暁

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