海外テニス

「とりあえず、ラファじゃなくてよかった」錦織圭の“発言”で振り返る全仏名シーン【2018年大会】

内田暁

2020.09.29

2018年の全仏も今年と同じく「ケガから復帰して初めて臨むグランドスラム」だった。写真:THE DIGEST写真部

 今年の全仏オープンは錦織圭にとって10回目となる節目の大会。ここでは彼自身が過去に発した「言葉」にフォーカスして、数々の名シーンを振り返っていく。シリーズ第2弾は、「ケガから復帰して初めて臨むグランドスラム」という、今年の全仏と同じシチュエーションで迎えた、2018年大会だ。

   ◆   ◆   ◆

 復帰後初めて出場するグランドスラムで、錦織に与えられたシードは19だった。それは、3回戦で自分より上位のシード選手と、そして4回戦ではトップ8と当たることが想定される地位である。

 ただ実際に3回戦で当たったのは、12シードのサム・クエリーではなく、地元フランスのジル・シモン。初対戦の相手ではあるが、緻密にラリーを組み立てる頭脳派のストローカーは、錦織にとって組みやすいタイプの選手でもある。本人も「やっとラリー戦を楽しめる相手でしたし、自分の調子も良くて」と好調宣言を残しての完勝だった。

 その先で当たる相手は記者会見の時点では未定だったが、錦織は第7シードの勝ち上がりを、半ば確信していたようだ。「(4回戦で)トップ10と当たることは、最初からわかっていましたから」と語ると、いたずらっぽい笑みで続けた。

「とりあえず、ラファじゃなくてよかったです」
 
 4回戦の相手は確かにラファエル・ナダルではなかったが、そのナダルにクレーで唯一土をつけた、ドミニク・ティームである。過去2度の対戦では錦織が勝っているが、最後に戦ったのは2年前。その後のティームの成長を考慮すれば、あまり参考にはならぬデータである。ティームも2敗の戦績について問われると、「それは昔の話だよ」と静かな口調にプライドをにじませた。

 その言葉を証明するように、錦織戦のティームは闘志をたぎらせ試合へと突入してきた。唸り声とともに左右から叩き込まれる回転の掛かったストロークは、ベースライン際で鋭く落ちると、錦織の胸元を抉るように跳ね上がる。錦織は見せ場を作れぬまま、最初の2セットを簡単に落とした。
 
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