19歳の内藤祐希にとって、今年初めて予選に出場した全仏オープンは、ジュニア時に最も良い結果を残した思い出の地でもある。シングルスは、ベスト8。ダブルスでは日本の佐藤南帆と組み、敗れはしたが決勝の舞台も踏んだ。
ただ、海外のコーチやテニス関係者にその事実を話しても、別段、感心したようなリアクションは返ってこない。
「そっか……ジュニアでのこの程度の結果は、誇るようなものではない。それに大切なのは今。もっと上に行かなくては」。彼女が強烈にそう感じたのは、全仏Jr.の単複両方で敗れた相手が、一足先にプロの世界で、次々に戦果を上げていることにも起因する。
「絶対に、置いていかれたくない。彼女が戦っているステージに早く行きたいです」
心を締め付ける焦燥感と、激しいモチベーションを内藤に与える存在……それが、今大会でセンセーションを巻き起こし決勝まで勝ち上がっている、イガ・シフィオンテク(ポーランド)である。
2年前の対戦で、内藤の印象に残っているシフィオンテクは、「サービスもストロークもスピードがあってパワフル。バックのドロップショットがうまかった」という、今の彼女と重なるものだ。一方で、「けっこう切れたりガッツを出したり、気持ちのアップダウンがあった」という記憶の中の彼女の姿は、2年前と今との最大の相違点だろう。
「試合後の握手の時に涙ぐんでいた」と内藤が証言するほどの感情の起伏の名残は、今でも試合直後のインタビューで、声を震わせる初々しい姿に微かに漂う。ただコート上の彼女は、老成と言えるまでの冷静さを保ち、感情の動きを自制できる“大人”な選手の印象だ。
そのことは、先の全米オープンで対戦したビクトリア・アザレンカ(ベラルーシ)の「彼女は常にポジティブで、コート上で答えを見つけることができる」との評価にも現れているだろう。
ちなみにこの時のアザレンカは、6-4,6-2とスコア上では圧倒したにも関わらず、「彼女はあらゆるアングルから、信じがたいウイナーを打ってくる」「ものすごく才能がある。美しいテニスをするし、とても頭が良い。動きも、スライディングをしながら正しいポジションに入るようでユニーク。サービスも色々織り交ぜてくる」と称賛の嵐だった。
2年前と今とのギャップを埋める重要なファクターは、恐らくは、ちょうど2年ほど前から師事しはじめた、スポーツ心理学者にある。若くして「精神面の強さが、現在のテニス界では最も重要」と悟る彼女は、サイクリングなど多くの競技で指導経験を持つ、ダリア・アブラモビッチ氏をツアーにも帯同するようになった。
その効果は狙い通りか、あるいはそれ以上だっただろう。シフィオンテクはアブラモビッチ氏を、「彼女は、私をとてもスマートにしてくれた」存在だと定義する。
「今の私は、この競技をより深く理解している。心理学の知識も身につけたので、自分の感情を把握できるし、言葉にすることもできる。自信のレベルは、以前よりも高くなった」。そう理知的に語る口調も、コート上の姿とピタリと重なるものだ。
「いつかグランドスラムの決勝に行くなら、それはローランギャロスだと信じていた」という夢の階段を駆け上げる19歳は、10月10日に頂点を掛け、今年の全豪優勝者である21歳のソフィア・ケニン(アメリカ)と対戦する。
わずか8ヵ月前に、自らがシンデレラストーリーのヒロインであったケニンは、「グランドスラム決勝で戦った経験は、間違いなく私の助けになる」と声に重く矜持を込めた。
その経験こそが勝者を決するのか、あるいは、スポーツ心理学を学びロジカルに強化した精神力が上回るのか――?
なお、両者の対戦はシニアレベルでは初になるが、4年前のこの大会のジュニア部門で対戦し、その時はシフィオンテクが6-4、7-5で勝利している。
文●内田暁
【PHOTO】シフィオンテク、ケニンなど全仏オープン2020で活躍した女子選手たちの厳選PHOTOを一挙公開!
ただ、海外のコーチやテニス関係者にその事実を話しても、別段、感心したようなリアクションは返ってこない。
「そっか……ジュニアでのこの程度の結果は、誇るようなものではない。それに大切なのは今。もっと上に行かなくては」。彼女が強烈にそう感じたのは、全仏Jr.の単複両方で敗れた相手が、一足先にプロの世界で、次々に戦果を上げていることにも起因する。
「絶対に、置いていかれたくない。彼女が戦っているステージに早く行きたいです」
心を締め付ける焦燥感と、激しいモチベーションを内藤に与える存在……それが、今大会でセンセーションを巻き起こし決勝まで勝ち上がっている、イガ・シフィオンテク(ポーランド)である。
2年前の対戦で、内藤の印象に残っているシフィオンテクは、「サービスもストロークもスピードがあってパワフル。バックのドロップショットがうまかった」という、今の彼女と重なるものだ。一方で、「けっこう切れたりガッツを出したり、気持ちのアップダウンがあった」という記憶の中の彼女の姿は、2年前と今との最大の相違点だろう。
「試合後の握手の時に涙ぐんでいた」と内藤が証言するほどの感情の起伏の名残は、今でも試合直後のインタビューで、声を震わせる初々しい姿に微かに漂う。ただコート上の彼女は、老成と言えるまでの冷静さを保ち、感情の動きを自制できる“大人”な選手の印象だ。
そのことは、先の全米オープンで対戦したビクトリア・アザレンカ(ベラルーシ)の「彼女は常にポジティブで、コート上で答えを見つけることができる」との評価にも現れているだろう。
ちなみにこの時のアザレンカは、6-4,6-2とスコア上では圧倒したにも関わらず、「彼女はあらゆるアングルから、信じがたいウイナーを打ってくる」「ものすごく才能がある。美しいテニスをするし、とても頭が良い。動きも、スライディングをしながら正しいポジションに入るようでユニーク。サービスも色々織り交ぜてくる」と称賛の嵐だった。
2年前と今とのギャップを埋める重要なファクターは、恐らくは、ちょうど2年ほど前から師事しはじめた、スポーツ心理学者にある。若くして「精神面の強さが、現在のテニス界では最も重要」と悟る彼女は、サイクリングなど多くの競技で指導経験を持つ、ダリア・アブラモビッチ氏をツアーにも帯同するようになった。
その効果は狙い通りか、あるいはそれ以上だっただろう。シフィオンテクはアブラモビッチ氏を、「彼女は、私をとてもスマートにしてくれた」存在だと定義する。
「今の私は、この競技をより深く理解している。心理学の知識も身につけたので、自分の感情を把握できるし、言葉にすることもできる。自信のレベルは、以前よりも高くなった」。そう理知的に語る口調も、コート上の姿とピタリと重なるものだ。
「いつかグランドスラムの決勝に行くなら、それはローランギャロスだと信じていた」という夢の階段を駆け上げる19歳は、10月10日に頂点を掛け、今年の全豪優勝者である21歳のソフィア・ケニン(アメリカ)と対戦する。
わずか8ヵ月前に、自らがシンデレラストーリーのヒロインであったケニンは、「グランドスラム決勝で戦った経験は、間違いなく私の助けになる」と声に重く矜持を込めた。
その経験こそが勝者を決するのか、あるいは、スポーツ心理学を学びロジカルに強化した精神力が上回るのか――?
なお、両者の対戦はシニアレベルでは初になるが、4年前のこの大会のジュニア部門で対戦し、その時はシフィオンテクが6-4、7-5で勝利している。
文●内田暁
【PHOTO】シフィオンテク、ケニンなど全仏オープン2020で活躍した女子選手たちの厳選PHOTOを一挙公開!