国内テニス

インカレ女王・阿部宏美の強みは、指導者不在の境遇で育まれた“自分をコーチングする能力”

内田暁

2020.12.18

インカレ決勝、阿部は強打やスライス、ムーンボール、アングルにネットプレーと、三次元的な組み立てで快勝した。写真:全日本学生テニス連盟

 完璧主義者、あるいは、葛藤の人――。
 阿部宏美と話す時、いつも頭に浮かぶのは、そんなフレーズだ。
 
 高校3年生だった2年前には、インターハイ・シングルスで全国の頂点に立った。翌年には筑波大学の1年生エースとして、同校を初めて"全日本大学対抗テニス王座"へと導く。

 そして今年、彼女は全日本学生選手権(通称インカレ)で、単複2冠を達成した。しかも決勝では、かつて同じクラブにも属した同郷の先輩相手に、1ゲームも落とさぬ圧巻の勝利を収めてである。

 にもかかわらず、優勝後の彼女から、喜びを爆発させるような言葉を聞くことはない。
「納得できる内容ではなかったので」
「理想のテニスには、ほど遠い」
 それらが試合後の常套句。完璧主義者的な気質と理想の高さが、彼女に無邪気に喜ぶことを許さないのだろう。

 阿部が目指すテニスがいかなるものかは、プレーからも見て取ることができるはずだ。

 スピンをかけたフォアハンドでラリーを組み立て、鋭いバックで攻めに転じる。ストライドの大きなサイドステップでボールに飛びつき、巧みにスライディングしながらスライスでボールを返す身のこなしは、高い運動能力を物語る。高低差のあるショットを打ち分け、3次元空間を広く用いるテニスは、男子的と言えるかもしれない。
 
 ただそのような柔軟なプレースタイルですら、彼女にとっては悩みのタネだ。得意なショットやポイントパターンを尋ねると、「ないんですよ、それが……」とポツリとこぼす。

 憧れの選手も、特にいない。チームメイトや同じ大会に出る選手を見ては、「彼女のサービスフォームはすごくきれいだ」「あの選手のフォアはお手本になる」と参考にするのが、彼女流の上達法だ。

 そのように、自ら工夫しながら高い理想を追う阿部の性質は、矛盾するようだが、エリート街道とは異なる道を歩んだ来歴に拠るところが大きいかもしれない。

 小学生時は、全国大会上位進出の常連だった。だが、中学校に上がった頃にヒジを痛めたことで、既定路線から逸れていく。所属したテニスクラブをやめ、他のスクールに通い始めるも、そこは学校帰りの子どもたちが立ち寄るような"習い事"の場。練習量は大きく減り、そうなれば成績が落ちるのも必然だった。