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海外テニス

「私の人生はうまく行く」――全豪予選突破の日比万葉が、5年半の心の葛藤を経て辿り着いた境地【女子テニス】

内田暁

2021.01.20

創造性に富んだ組み立てで、果敢にネットも奪う日比万葉のテニス。心の迷いが吹っ切れたことで、彼女本来の強さも蘇ってきた。(C)Getty Images

創造性に富んだ組み立てで、果敢にネットも奪う日比万葉のテニス。心の迷いが吹っ切れたことで、彼女本来の強さも蘇ってきた。(C)Getty Images

「人生で初めて、試合に勝って泣きましたよ」と、一息に彼女は言った。

 中東のドバイで行なわれた、全豪オープン予選決勝を勝った後のこと。ここに至る5年半の日々が頭をめぐり、こみ上げる種々の感慨が、両の目から溢れ落ちた。

 2015年の夏――彼女は、19歳だった。米国カリフォルニア州に育った日比万葉にとり、USオープンはジュニア時代にも結果を残した、ホームコートともいえる大会。良い記憶が刻まれ、知り合いも応援に駆けつけてくれたニューヨークの地で、彼女は予選3試合を競り勝ち、初めてグランドスラム本戦の切符をつかむ。

 この先、もっと良いことが待っている――そんな自分への期待を、ここから歩む未来へと投影していた。

 だが、キャリアの早い地点での成功体験が、彼女を束縛することになる。この全米後の2年間、彼女はグランドスラムの予選で、1セットも取れぬ時を過ごした。グランドスラムの予選に限り、試合前のウォームアップ時に足が震え、頭が真っ白になる。片手バックハンドのスライスに代表される緩急と戦略性で戦う彼女にとり、「頭が真っ白」は、武器を封じられたも同然だ。
 
 これでは試合にならないとわかりながらも、意識すればするほど、症状は悪化した。やがてはグランドスラム予選のみならず、WTAツアーの予選などでも、同様の現象に見舞われる。

 テニスを始めた子どもの頃から、夢はウインブルドンを筆頭とする、グランドスラムのセンターコートで戦うこと。その夢に近づくためITF大会で勝利をつかみランキングを上げても、大切な試合では自分のテニスをすることが叶わない。

「子どもの頃になりたかった自分になれたはずなのに、なんでこんなに、苦痛な思いをしているんだろう……」
 自問自答の渦に陥ったまま、コートを離れた時期もあった。

 そんな彼女にとって、新型コロナウイルス流行による社会の変容は、新たな視座を獲得する契機となる。これまでやりたいと思っていた、障害を抱えた子どもや孤児のためのコミュニティサイトを立ち上げ、チャリティの英会話レッスンやセミナーを始めた。

 人に何かを説明するとなると、概念を言語化し、体系的に整理しなくてはいけない。十分にわかっていると思っていたことも、知識に厚みや多面性を持たせる必要が出てくる。それらの工程を日常的に繰り返すなかで、「自分の考えや感情をコントロールできるようになってきた」と彼女は言う。
 

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