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「やっているうちに戻ってくる」錦織圭は噛み合う時が来るのを待ち、前を向く【全豪オープン/現地発レポート】〈SMASH〉

内田暁

2021.02.09

全豪1回戦でじっくり打ち合うことを選択した錦織。(C)Getty Images

 早いタイミングでプレーすべきか、あるいは、じっくりと打ち合うべきか――?

 約4カ月ぶりの公式戦となるATPカップ2試合を終え、全豪オープンテニス初戦のパブロ・カレノブスタ戦を控えた時点で、錦織はそのような迷いを抱いていた。

 早い展開のプレーは、錦織が「自分が昔やっていた」と追想する、良い時の心身の記憶。だが、全豪開幕を控えて冷静に振り返った時、過去2試合は「焦りすぎていた」ことに気づいた。

「先週(ATPカップ)は早く決めたいなと思って、球が一直線でネットすれすれで戦うことが多かった」。それがミスが増えた一因かもと仮定し、全豪初戦では「じっくりやろうかなと思い、スピンを多めにかけた」と言う。

 結果的にその判断が、「リズムが生まれ、しっかり打ち合える球が行ってた」という良いプレーを呼び起こした。試合の立ち上がりでは、深いストロークで相手を左右に振り回し、豪快なフォアの強打をオープンコートへと叩き込む。

 とりわけ観客の歓声を引き起こしたのが、ブレークした第4ゲームから第5ゲームにかけての流れだ。相手の虚を突くスライスを左右から放つなど、錦織らしい創造性と意外性を存分に発揮。かと思えば第5ゲームでは、フォアのダウンザライン、そして躍動感溢れるスイングボレーでウイナーを連発する。
 
「今までにないくらい、試合に入ってから勝てるんじゃないかと思える出だし。それくらい球を捉える感覚や球筋など、色々と良かった」 試合を振り返る錦織の声にも、喜びの色が滲んだ。

 ただ、第1と第2セットともに、勝敗に直結する終盤の数ポイントを錦織は取り切れない。特に第2セットのタイブレークでは、「タイブレークのプレーの仕方を忘れたんじゃないかと思うくらい、ミスが多くて。もうちょっとじっくりやりたかったですね、あそこは」と悔いた。

「選択ミスがあった」と振り返る勝負所での数ポイントの取り損ねは、実戦でしか得られぬデータ蓄積と、ポイントパターンの構築不足ゆえだろう。そこに関しては本人も、「試合勘はやっているうちに戻ってくると思うので、いつクリックするのか、それ待ち」と冷静に俯瞰する。

 焦りを打ち消し、じっくり打ち合うことで好感触が得られたように、今の錦織は、打球感と試合勘が噛み合う時を、腰を据えて待つ構えだ。

「これは本当に、いつか来るものだと思っている。良い時がいつ来てもいいように、ネガティブにならないように前を向いていきたいです」

 "その時"を求めて、全豪後は欧州のインドアシリーズへと旅路を取る。

現地取材・文●内田暁

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【動画】全豪OP1回戦。錦織対カレノブスタ戦のハイライト