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会社経営を嘱望されつつも、テニスコーチという天職を見つけた、ムラトグルの指導論

内田暁

2019.10.09

セレナ・ウィリアムズ、チチパスら、選手をトップに育てる手腕に優れたパトリック・ムラトグル。写真:スマッシュ編集部

 今年1月の全豪オープンで、ロジャー・フェデラーらを破りベスト4に進出した、21歳のステファノス・チチパス。

 7月のウインブルドンで予選を突破し本戦の切符を勝ち取ると、その初戦でビーナス・ウィリアムズを破り、最終的に3回戦まで勝ち進んだ15歳の衝撃、ココ・ガウフ。

 そしてウインブルドン、さらに全米オープンでも決勝に勝ち上がった、38歳の戦うレジェンド、セレナ・ウイリアムズ。

 この世代は異なるも、いずれも今季のテニス界を沸かせた3選手の共通項――それが、パトリック・ムラトグルの指導を受けている点である。 

 彼はセレナの現コーチであり、チチパスとガウフが5年以上の年月を過ごすテニスアカデミーの創設者/経営者であり、ユーロ・スポーツなどで解説を務めるコメンテーターでもある。そして最近ではダンロップのブランド・アンバサダーに就任し、豊富な経験と知識を日本でも発揮しはじめた。


 去る9月末日、そのテニス界のカリスマコーチは東京都のスポル品川大井町を訪れ、指導者を対象としたセミナー及びジュニアクリニックを開催。自らラケットを手にボールを打ち、参加者たちと快活にコミュニケーションを取る姿には、彼の指導者キャリアに通底する哲学が脈動していた。

 複数の電力会社を経営する著名なビジネスマンを父に持つ彼は、いかにコーチとしてのキャリアをスタートさせ、どのような指導理念を抱いているのだろうか?
 本人に語ってもらった。
 
「私は子どもの頃にテニスを始め、フランスでもトップクラスのジュニア選手になりました。テニスは常に私が最も情熱を注ぐ対象であり、将来はプロになるものだと思っていたんです。
 
 でも15歳になった時、両親から『もうテニスは十分だ、勉強をしなさい』と言われました。正直、深く落ち込みました。以降は勉強に打ち込み、ビジネスの世界で働くようにもなりましたが、それでもはやり、幸福だと感じることはできませんでした。『父の跡を継ぐことが、私のやりたいことではない。自分が一番夢中になれるのは、やはりテニスだ』と感じていたからです。


 そして26歳の時に、若いテニス選手たちを助けよう、彼らが夢をつかむための力になろうと決意しました。なぜならそれは、私自身が果たせなかった夢だからです。そこでまずは、パリ郊外のテニスクラブのコートを2面借りて、若い選手たちを指導し始めました。その教え子たちが結果を出したので多くの選手が集まり、どんどん規模も大きくなっていきました。一歩ずつ積み上げながら、ここまで来たという感じです」
 
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選手の個性や持ち味を、異なる指導法で伸ばしていく