大坂なおみのファミリーボックスに座し、眼光鋭くコート上の動きを目で追うアジア人男性の姿は、テニスファンの間では、すでに広く認識されているだろう。あるいは、以前はマリア・シャラポワのボックスにいた彼を、覚えている人も多いかもしれない。
中村豊――
肩書は、ストレングス&コンディショニングコーチ、もしくはフィジカルトレーナー。IMGテニスアカデミーやテニス・オーストラリアのトレーナーを歴任し、シャラポワや大坂にグランドスラムを制するフィジカルを与えた、この道の第一人者である。
「なおみの専属トレーナーになってもらえないか?」
中村が、大坂のマネージャーからそんなオファーを受けたのは、昨年初夏のことだった。当時の中村は、IMGテニスアカデミーのフィジカル&コンディショニング・ヘッドコーチに就いていた。大坂の「専属」になるということは、その職を辞することを意味している。
「数日、考えさせてほしい」
さすがに即答はできず、一旦はそう言い電話を切った。だがその時点で、中村の心は、ほぼ決まっていたという。それは2年前……当時20歳のニューカマーが放つ存在感を、目の当たりにした鮮烈な記憶があったからだ。
2018年3月――。BNPパリバオープン(インディアンウェルズ)の初戦で、大坂はシャラポワと対戦し、中村の目の前で完勝を収めた。この時に中村を驚嘆させたのは、大坂のアスリートとしての能力のみならず、見る者を引きつけるカリスマ性である。
その、無限の可能性を秘めた大器を、自らの手で磨き上げることができる……それはトレーナーとして、あまりに魅力的な機会だった。
加えて中村にとって大きかったのが、大坂が、日本国籍の下に戦っていることである。「自分の知識や経験を、最終的には日本のスポーツ界に還元したい」と常々願っていた中村にとり、大坂のトレーナー就任は、自分の夢を実現する道にもなり得た。
それら諸要素を勘案し、自身に幾度か問いただしたが、弾き出される答えに揺るぎはない。オファーの連絡を受けた数日後、中村は、正式に“チームなおみ”の一員となった。
「豊は、とても真面目な人よね。でも……ちょっとおかしいの」
全豪オープン準々決勝で、難敵シェイ・スーウェイに快勝した後のこと。中村と初めて会った頃を振り返り、大坂は笑みをこぼした。
「私のことをよく知らない人は、初めて会う時は緊張した感じになる。彼も最初は、すごく厳格な感じだった。でも私があまりに“おこちゃま”だから、彼も拍子抜けしちゃったみたい。だから今では、彼もジョークを言ったりふざけたりしてるわ」
それに……と、大坂は続ける。
「何より大切なのは、私たちは、とてもよく話すということ。私と豊、そして(コーチの)ウィム(・フィセッテ)はお互いを理解し、強い信頼関係を築き始めている。それはたぶん、トレーニングよりも重要なことだと思う」
中村豊――
肩書は、ストレングス&コンディショニングコーチ、もしくはフィジカルトレーナー。IMGテニスアカデミーやテニス・オーストラリアのトレーナーを歴任し、シャラポワや大坂にグランドスラムを制するフィジカルを与えた、この道の第一人者である。
「なおみの専属トレーナーになってもらえないか?」
中村が、大坂のマネージャーからそんなオファーを受けたのは、昨年初夏のことだった。当時の中村は、IMGテニスアカデミーのフィジカル&コンディショニング・ヘッドコーチに就いていた。大坂の「専属」になるということは、その職を辞することを意味している。
「数日、考えさせてほしい」
さすがに即答はできず、一旦はそう言い電話を切った。だがその時点で、中村の心は、ほぼ決まっていたという。それは2年前……当時20歳のニューカマーが放つ存在感を、目の当たりにした鮮烈な記憶があったからだ。
2018年3月――。BNPパリバオープン(インディアンウェルズ)の初戦で、大坂はシャラポワと対戦し、中村の目の前で完勝を収めた。この時に中村を驚嘆させたのは、大坂のアスリートとしての能力のみならず、見る者を引きつけるカリスマ性である。
その、無限の可能性を秘めた大器を、自らの手で磨き上げることができる……それはトレーナーとして、あまりに魅力的な機会だった。
加えて中村にとって大きかったのが、大坂が、日本国籍の下に戦っていることである。「自分の知識や経験を、最終的には日本のスポーツ界に還元したい」と常々願っていた中村にとり、大坂のトレーナー就任は、自分の夢を実現する道にもなり得た。
それら諸要素を勘案し、自身に幾度か問いただしたが、弾き出される答えに揺るぎはない。オファーの連絡を受けた数日後、中村は、正式に“チームなおみ”の一員となった。
「豊は、とても真面目な人よね。でも……ちょっとおかしいの」
全豪オープン準々決勝で、難敵シェイ・スーウェイに快勝した後のこと。中村と初めて会った頃を振り返り、大坂は笑みをこぼした。
「私のことをよく知らない人は、初めて会う時は緊張した感じになる。彼も最初は、すごく厳格な感じだった。でも私があまりに“おこちゃま”だから、彼も拍子抜けしちゃったみたい。だから今では、彼もジョークを言ったりふざけたりしてるわ」
それに……と、大坂は続ける。
「何より大切なのは、私たちは、とてもよく話すということ。私と豊、そして(コーチの)ウィム(・フィセッテ)はお互いを理解し、強い信頼関係を築き始めている。それはたぶん、トレーニングよりも重要なことだと思う」