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「格下」が「格上」を倒すこともあるテニス。番狂わせが起きやすいのは?【鈴木貴男コラム】

鈴木貴男

2019.10.20

全米オープンで78位のディミトロフがフェデラーに初勝利。ここにはランキングだけでは測れないものもあった。(C)Getty Images

 テニスではよく、「格上、格下」という言葉が聞かれます。世界ランキングが毎週更新されていくのがテニスというスポーツですから、数字でその選手を表すものの一つとして、とてもわかりやすいかと思います。

 現在の男子テニスのトップ3である、ジョコビッチ、ナダル、フェデラーは、紛れもなく、高い実力の持ち主であり、体力、技術、メンタル面、全てにおいて、抜きん出ている存在で、車で言えばF1です。この3人の壁はなかなか切り崩すのが難しく、それが実際のランキングとなって表れているのは、事実です。

 また、10位、30位、100位と大まかにくくってみても、その力の差というのは必ず出てきます。しかし、100位から150位となってくると、ここは1週ですぐ変わってしまうくらい、実力は拮抗しているでしょう。

 このように、ランキングというのは「やってきたことの結果」として、目安となることは間違いありません。

 しかし、見逃してはいけないところもあります。
 例えば、選手には故障や、モチベーションの低下、バイオリズムの浮き沈み、といったものはつきもので、能力的には高くても結果を出せない時は必ずあります。そういった理由で、ランキングを落としている選手が、その時自分よりランキングが高い選手に、勝つということは普通にあります。
 
 また、ランキングは1年間有効ということを知らない人も多くいます。昨年出場して得たポイントは、翌年の同じ週の大会(もしくはグレード)で、同様の結果を残せなければ、減ってしまうのです。ですから、その前に落としたポイントが多ければ、落ちる可能性もあるのです。
 ですから、よくある「格下が、格上に勝利」の表現は、単純にランキングでは測れないことでもあります。例えば、全米の準々決勝で、78位のディミトロフが3位のフェデラーに勝ったことも、十分にあり得ることだったのです。

 テニスのシングルスは1人対1人の戦いです。コートもボールも毎週変わります。いつ、何が起きてもおかしくありません。ですからその時のランキングだけではなく、過去何位だったのか、上がってきた選手なのか、下がってきた選手なのか、といったところに注目してみるもの面白いと思います。

 また、最も番狂わせが起きやすいシチュエーションは1回戦です。この時ばかりはトップの選手のエンジンが温まっていないこともありますから、アクセルベタ踏みの選手に敗退することもあります。

 毎週の試合の中で、少しでも油断すれば足元をすくわれる。テニスの世界は厳しいものですね。
 

鈴木貴男(すずきたかお) 
Team REC
1976年9月20日生まれ。グランドスラム、ATPツアーを転戦した経験を生かし、現在はプロテニスプレーヤーであるかたわら、ツアーコーチ、WOWOWテニス放送の解説や、トップジュニアの指導、そして愛好家へのクリニックとテニスにおいてマルチな活躍を見せている。
ジャパンオープンシングルスベスト8、ダブルス優勝。全日本選手権3回制覇。