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海外テニス

セレナ、アザレンカ、ベスニナなど、続く“ママさんプレーヤー”の活躍。その裏には改革が進むWTAの手厚いサポートが<SMASH>

内田暁

2021.06.11

今年3月に復帰したばかりのベスニナは、カラチェフとのペアで見事混合ダブルス準優勝を果たした。(C)Getty Images

今年3月に復帰したばかりのベスニナは、カラチェフとのペアで見事混合ダブルス準優勝を果たした。(C)Getty Images

 ローランギャロスの決勝のコートに立つのは、5年ぶりのことだった。
 手にしたのはその時と同じく、準優勝のプレート。5年前は女子ダブルスで、今回は混合ダブルスでのそれだ。

 頂点を逃した悔しさは、どちらにも共通しているだろう。ただあの時と今とでは、年齢のみならず立場も状況も大きく異なっていた。

 2019年11月に第一子を出産したエレナ・ベスニナにとって、今年の全仏オープンは、復帰後初めてのグランドスラムだった。

「ママさんプレーヤー」などという古臭い言葉を引っ張り出すまでもないほどに、今やテニスの女子ツアーでは、子どものいる選手の活躍は珍しくない。

 昨年9月の全米オープンでは、準優勝のビクトリア・アザレンカを筆頭に、セレナ・ウィリアムズ、ツベタナ・ピロンコワの3選手がシングルスでベスト8以上に進出。同大会の女子ダブルスを制したのは、ラウラ・シグムンドと組んだベラ・ズボナレワである。

 そして今年は、元ダブルス世界1位、シングルスも最高13位のベスニナがツアーに帰ってきた。ちなみに、ベスニナがシングルスの初戦で対戦したオルガ・ゴボルツォバ、そして大坂なおみがやはり初戦で対戦したパトリシアマリア・ティグも、3年前の出産経験者だ。

 2000年代に入って以降、シビル・バマーやリンゼイ・ダベンポートら産後にも活躍した選手はいたが、最大のインパクトを残したのは、キム・クリステルスなのは間違いない。

 24歳にして引退した元世界1位は、出産を経て2年後に競技生活に復帰。しかも、復帰戦の3週間後に全米オープンを制するという、とんでもない偉業を成し遂げたのだ。

 その後もクリステルスは、全米と全豪オープンでも優勝。出産前以上の結果を残し、多くの女子選手のメンタルバリアを取り除いた。
 
 かくしてクリステルスが開いた扉に、次々と選手が飛び込んでいく。クリステルスより2歳年長のセレナも、その一人だ。

 また、クリステルスが残した財産は、単なる“前例”に留まらない。彼女が復帰した2009年当時、ケガや病気の選手に適応される“プロテクトランキング”は妊娠・出産には適応されず、クリステルスはランキング外から復帰の道を駆けあがった。

 その後WTAは、「出産から12か月間は、スペシャルランキングが適応される」との新ルールを導入。さらに、セレナが復帰した2018年の末には、「産後3年間、累計12大会にスペシャルランキングを用いて出場できる」と、ルールの適応期間を拡張した。

 出産の14か月後に復帰したベスニナは、まさにこの新ルールの恩恵に預かったと言える。復帰戦となった今年3月のカタール・オープンで、彼女は次のように明かしていた。

「出産した後もWTAはこまめに連絡をくれ、『スペシャルランキングを維持しておくから』と言ってくれた。正直、私は復帰なんて全く考えていなかったから、残すつもりはなかったの。でもWTAが『エレナ、ダブルスNo.1でシングルスもトップ50は、素晴らしいランキングよ』と言うので、『戻らないと思うけれど、だったら残しておいて』って返事したの」
 
 今、「やっぱりテニスが大好きだと気付いた」と笑う彼女は、その時のツアーの勧めに感謝していることだろう。
 
 引退後に出産した杉山愛さんは、コーチとしてツアーの現場に戻った時、大会がいかに“子育てに適した環境”に変わったことに驚いたという。
「グランドスラムや大きな大会は、競うようにして環境を整えていると感じました。あの大会がこうしているなら、うちはこうしよう……という風に」

 女子テニスはその長い歴史の中で、男女賞金同額など、常に変革を求めてきた。
出産後に復帰しやすく、小さな子ども連れでも転戦可能な環境という面でも、テニスはパイオニアであろうとしている。

現地取材・文●内田暁

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