今年の全仏オープンでは、優勝争いと並行し、もう一つの話題と序列争いが進行していた。
全仏閉幕翌日の6月14日付け世界ランキングで、東京オリンピック・パラリンピックの出場権が決まることである。
「日本国民の8割が、今夏の開催を望んでいない」との報道が世界に広まったこともあり、トップ選手たちには、出場に慎重な向きが多い。
輝かしいトロフィーコレクションに、唯一欠けているオリンピック・シングルス金メダルを追うロジャー・フェデラーも、その一人。
「オリンピックに対しては、二つの想いを抱いている。
一つは、とてもプレーしたい。プレーするかどうかが議論の対象にならないほどに、事態が好転すればと願っている。僕の希望と願いは、それに尽きる。
ただ出るには、僕の家族やチームスタッフが納得できる状況が必要だ。この先の数週間や一か月は、状況を見る必要がある」
今大会初戦に勝利した時点での、それがフェデラーの東京への距離感だった。
フェデラーと同様に……いや、恐らくはそれ以上に金メダルを渇望しているのが、リオ・オリンピックでホアン・マルティン・デルポトロに初戦敗退を喫し、大粒の涙を流してコートを去ったノバク・ジョコビッチだ。2019年には会場視察も兼ね、楽天オープンに初出場している。
そんな彼すらも、現時点では「出るべきかどうか、自分に問いただしている」と言った。その判断基準となるのは「観客」だ。
「もしファンが入るなら、その時は出るつもりでいる」
全仏を控えジョコビッチはそう言ったが、これは翻せば、無観客なら出場の可能性は低いということだろう。
男子の世界1位が出場を決めかねている一方で、女子1位のアシュリー・バーティーは、すでに心が決まっている模様だ。
東京オリンピックの開催時期は、ヨーロッパシリーズの直後であり、北米シリーズの直前。スケジュール的に厳しいが、「この時期サーフェスが目まぐるしく変わるのは、今年に限ったことではない。まずは各週、一日一日に集中していきたい」と、オーストラリアを代表することに迷いはなさそうだ
フレッシュな顔が上位進出し、ランキングの変動も激しい女子の方では、ベスト4進出のタマラ・ジダンセクが85位からトップ50にジャンプアップした。この結果でスロベニア代表の地位も確実となったが、本人は、「オリンピックに出ないと、すでに公言している」と言った。
「カットが決まる前の時点で、決めていたこと。このCOVIDの状況を見たら、今回が通常のオリンピックになりえないのは明らか。確かに、オリンピックは誰もが出られる場所ではないけれど、私には次のパリ大会にもチャンスはあると思うから」
ローランギャロスで大躍進した23歳は、同会場で開催の2024年大会に、早くも希望の目を向けている。
ジダンセク同様に、今大会の躍進で出場権を確定させたのが、コリ・ガウフだ。彼女の場合はランキング以上に、一国あたり4人の上限枠が障壁となっていた。そこに自身がベスト8に進み、同胞スローン・スティーブンスが4回戦で敗れたことで、アメリカ4番手へと上昇。その事実を素直に喜ぶ17歳は、オリンピック出場の意向を明言した。
そのほかの女子上位勢では、イガ・シフィオンテクがオリンピックに重きを置く。ウインブルドンJr.の優勝者だが、芝への苦手意識が強い。それだけに「次にピークを合わせるのはオリンピック」と、初めて向かう日本に焦点を定めている様子だ。
なお、今大会でギリシャ旋風を巻き起こしたステファノス・チチパスとマリア・サッカリは、同国記者のビッキー・ヨルゲトゥ氏によると、そろって大会出場を表明。シングルスのみならず、ミックスダブルスを組むことでも合意しているという。
テニス界におけるオリンピックの重要性は、大会を重ねるごとに増している。ただ、先行き不透明な時世では、判断基準や現状の受け止め方が人それぞれなのも当然のこと。
カットオフそのものは6月14日に決まるが、実際に出場する顔ぶれは、直前まで流動的になりそうだ。
現地取材・文●内田暁
【PHOTO】史上最強の王者!絶大な人気を誇るロジャー・フェデラーの「ウインブルドン2019」を振り返る!
全仏閉幕翌日の6月14日付け世界ランキングで、東京オリンピック・パラリンピックの出場権が決まることである。
「日本国民の8割が、今夏の開催を望んでいない」との報道が世界に広まったこともあり、トップ選手たちには、出場に慎重な向きが多い。
輝かしいトロフィーコレクションに、唯一欠けているオリンピック・シングルス金メダルを追うロジャー・フェデラーも、その一人。
「オリンピックに対しては、二つの想いを抱いている。
一つは、とてもプレーしたい。プレーするかどうかが議論の対象にならないほどに、事態が好転すればと願っている。僕の希望と願いは、それに尽きる。
ただ出るには、僕の家族やチームスタッフが納得できる状況が必要だ。この先の数週間や一か月は、状況を見る必要がある」
今大会初戦に勝利した時点での、それがフェデラーの東京への距離感だった。
フェデラーと同様に……いや、恐らくはそれ以上に金メダルを渇望しているのが、リオ・オリンピックでホアン・マルティン・デルポトロに初戦敗退を喫し、大粒の涙を流してコートを去ったノバク・ジョコビッチだ。2019年には会場視察も兼ね、楽天オープンに初出場している。
そんな彼すらも、現時点では「出るべきかどうか、自分に問いただしている」と言った。その判断基準となるのは「観客」だ。
「もしファンが入るなら、その時は出るつもりでいる」
全仏を控えジョコビッチはそう言ったが、これは翻せば、無観客なら出場の可能性は低いということだろう。
男子の世界1位が出場を決めかねている一方で、女子1位のアシュリー・バーティーは、すでに心が決まっている模様だ。
東京オリンピックの開催時期は、ヨーロッパシリーズの直後であり、北米シリーズの直前。スケジュール的に厳しいが、「この時期サーフェスが目まぐるしく変わるのは、今年に限ったことではない。まずは各週、一日一日に集中していきたい」と、オーストラリアを代表することに迷いはなさそうだ
フレッシュな顔が上位進出し、ランキングの変動も激しい女子の方では、ベスト4進出のタマラ・ジダンセクが85位からトップ50にジャンプアップした。この結果でスロベニア代表の地位も確実となったが、本人は、「オリンピックに出ないと、すでに公言している」と言った。
「カットが決まる前の時点で、決めていたこと。このCOVIDの状況を見たら、今回が通常のオリンピックになりえないのは明らか。確かに、オリンピックは誰もが出られる場所ではないけれど、私には次のパリ大会にもチャンスはあると思うから」
ローランギャロスで大躍進した23歳は、同会場で開催の2024年大会に、早くも希望の目を向けている。
ジダンセク同様に、今大会の躍進で出場権を確定させたのが、コリ・ガウフだ。彼女の場合はランキング以上に、一国あたり4人の上限枠が障壁となっていた。そこに自身がベスト8に進み、同胞スローン・スティーブンスが4回戦で敗れたことで、アメリカ4番手へと上昇。その事実を素直に喜ぶ17歳は、オリンピック出場の意向を明言した。
そのほかの女子上位勢では、イガ・シフィオンテクがオリンピックに重きを置く。ウインブルドンJr.の優勝者だが、芝への苦手意識が強い。それだけに「次にピークを合わせるのはオリンピック」と、初めて向かう日本に焦点を定めている様子だ。
なお、今大会でギリシャ旋風を巻き起こしたステファノス・チチパスとマリア・サッカリは、同国記者のビッキー・ヨルゲトゥ氏によると、そろって大会出場を表明。シングルスのみならず、ミックスダブルスを組むことでも合意しているという。
テニス界におけるオリンピックの重要性は、大会を重ねるごとに増している。ただ、先行き不透明な時世では、判断基準や現状の受け止め方が人それぞれなのも当然のこと。
カットオフそのものは6月14日に決まるが、実際に出場する顔ぶれは、直前まで流動的になりそうだ。
現地取材・文●内田暁
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