「わたしも歳取りました。ここにいる選手たち見ても、みんな若いなぁって」
今大会の開幕日。
コートは試合と練習で埋まり、通路にはウォームアップや雑談をする選手が溢れる会場の様子を、彼女は一人、俯瞰するように眺めていた。
短く切った髪を揺らす小柄な姿は、一見すると、中学生でも通りそうなほど若く見える。4年前の全日本選手権優勝者の今西美晴は、今年、29歳を迎えていた。
昨年の4月から今西は、元世界トップ50の中村藍子と、その伴侶でコーチの古賀公仁男が立ち上げた、兵庫県のアカデミーを拠点としている。環境を一変しての、再出発。ただそれは、必ずしも本人の意思によるものではなかった。
2017年に悲願の全日本タイトルを手にした今西は、翌年、ランキングも自己最高の187位に到達。
だが以降は戦績的に苦しみ、2020年の春先には、所属先の島津製作所との契約も終了した。
さらには時を前後して、新型コロナウイルス感染拡大により、大会は次々と中止になる。
「もう、テニスは無理やって言われてるんかな?」
そんな負の運命論に、心が揺さぶられもした。
かつて指導を仰いだコーチの古賀から、「うちでやらないか」と声を掛けられたのは、そんな折である。当時の新設アカデミーを拠点とするのは、ジュニア上がりの今村咲のみ。移った環境も含め、全てがゼロからのスタートだった。
コロナ禍に加え資金面でも苦しんだ昨年は、海外遠征は控えることを余儀なくされる。今季は、エジプトやチュニジアへの長期遠征に出たが、もどかしい日が多かったと打ち明けた。
「ケガも重なり、練習をがんばりたくてもがんばれない。毎日100パーセントでやりたいけれど、試合直前に腰を痛めたり…、もう自分は終わりなのかと思いもした」
それでも「応援してくれる人たちに応えたい。悔いなく最後まで戦い切りたい」との想いを原動力に、つなぎとめてきた気力と日々。
「一戦一戦が勝負」
それが今の、偽らざる心境だ。
昨年は初戦で敗退した全日本で、今年、今西はベスト4まで勝ち上がっている。それも、2回戦の上田らむ戦、そして準々決勝の小堀桃子戦のいずれも、フルセットの大熱戦。とりわけ小堀との試合では、第1セットは1-5、ファイナルセットも1-4の窮状から巻き返し、泥臭く勝利をもぎ取った。
結果的には、優勝した時以来の好調を維持している今大会。だが実は、「直前にぎっくり腰になり、練習も十分にできなかった」という厳しい状況で迎えていたという。
ただ、できることが限られたことで、雑念がそぎ落とされ、やるべきことが明瞭化された。
「足を使って早いタイミングでボールを捉え、相手のボールが浅くなったら前に入る」
言語化すればシンプルだが、実際に貫くのは困難な「私のテニス」。それを可能にしているのは、「最近の若い子たちは、スライスやドロップショットも打てて、みんなうまい」という、対戦相手たちへのある種の敬意。虚心坦懐に現状を受け入れることで、プレーに迷いがなくなったようだ。
どこか達観した空気をまとい勝ち進んだ準決勝で、今西を待つのは、20歳の光崎楓奈。
“今どきのうまい若手”との対戦は、趣深い一戦になるはずだ。
◆女子シングルス準々決勝の結果(11月4日)
今西美晴(EMシステムズ)[12] 7-6(9) 1-6 7-6(2) 小堀桃子(橋本総業ホールディングス)[4]
取材・文●内田暁
【PHOTO】昨年の全日本選手権ファイナルを厳選写真で振り返り!
今大会の開幕日。
コートは試合と練習で埋まり、通路にはウォームアップや雑談をする選手が溢れる会場の様子を、彼女は一人、俯瞰するように眺めていた。
短く切った髪を揺らす小柄な姿は、一見すると、中学生でも通りそうなほど若く見える。4年前の全日本選手権優勝者の今西美晴は、今年、29歳を迎えていた。
昨年の4月から今西は、元世界トップ50の中村藍子と、その伴侶でコーチの古賀公仁男が立ち上げた、兵庫県のアカデミーを拠点としている。環境を一変しての、再出発。ただそれは、必ずしも本人の意思によるものではなかった。
2017年に悲願の全日本タイトルを手にした今西は、翌年、ランキングも自己最高の187位に到達。
だが以降は戦績的に苦しみ、2020年の春先には、所属先の島津製作所との契約も終了した。
さらには時を前後して、新型コロナウイルス感染拡大により、大会は次々と中止になる。
「もう、テニスは無理やって言われてるんかな?」
そんな負の運命論に、心が揺さぶられもした。
かつて指導を仰いだコーチの古賀から、「うちでやらないか」と声を掛けられたのは、そんな折である。当時の新設アカデミーを拠点とするのは、ジュニア上がりの今村咲のみ。移った環境も含め、全てがゼロからのスタートだった。
コロナ禍に加え資金面でも苦しんだ昨年は、海外遠征は控えることを余儀なくされる。今季は、エジプトやチュニジアへの長期遠征に出たが、もどかしい日が多かったと打ち明けた。
「ケガも重なり、練習をがんばりたくてもがんばれない。毎日100パーセントでやりたいけれど、試合直前に腰を痛めたり…、もう自分は終わりなのかと思いもした」
それでも「応援してくれる人たちに応えたい。悔いなく最後まで戦い切りたい」との想いを原動力に、つなぎとめてきた気力と日々。
「一戦一戦が勝負」
それが今の、偽らざる心境だ。
昨年は初戦で敗退した全日本で、今年、今西はベスト4まで勝ち上がっている。それも、2回戦の上田らむ戦、そして準々決勝の小堀桃子戦のいずれも、フルセットの大熱戦。とりわけ小堀との試合では、第1セットは1-5、ファイナルセットも1-4の窮状から巻き返し、泥臭く勝利をもぎ取った。
結果的には、優勝した時以来の好調を維持している今大会。だが実は、「直前にぎっくり腰になり、練習も十分にできなかった」という厳しい状況で迎えていたという。
ただ、できることが限られたことで、雑念がそぎ落とされ、やるべきことが明瞭化された。
「足を使って早いタイミングでボールを捉え、相手のボールが浅くなったら前に入る」
言語化すればシンプルだが、実際に貫くのは困難な「私のテニス」。それを可能にしているのは、「最近の若い子たちは、スライスやドロップショットも打てて、みんなうまい」という、対戦相手たちへのある種の敬意。虚心坦懐に現状を受け入れることで、プレーに迷いがなくなったようだ。
どこか達観した空気をまとい勝ち進んだ準決勝で、今西を待つのは、20歳の光崎楓奈。
“今どきのうまい若手”との対戦は、趣深い一戦になるはずだ。
◆女子シングルス準々決勝の結果(11月4日)
今西美晴(EMシステムズ)[12] 7-6(9) 1-6 7-6(2) 小堀桃子(橋本総業ホールディングス)[4]
取材・文●内田暁
【PHOTO】昨年の全日本選手権ファイナルを厳選写真で振り返り!