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国内テニス

【全日本テニス選手権】今西美晴がベスト4進出!「最近の若い子はうまい」現状を受け入れた29歳が迷いを断ち切って勝利<SMASH>

内田暁

2021.11.04

フルセットにもつれ込む大接戦の末に今西美晴が勝利をつかみ取った。写真提供:齋藤宣孝(関西テニス協会)

フルセットにもつれ込む大接戦の末に今西美晴が勝利をつかみ取った。写真提供:齋藤宣孝(関西テニス協会)

「わたしも歳取りました。ここにいる選手たち見ても、みんな若いなぁって」
 
 今大会の開幕日。

 コートは試合と練習で埋まり、通路にはウォームアップや雑談をする選手が溢れる会場の様子を、彼女は一人、俯瞰するように眺めていた。

 短く切った髪を揺らす小柄な姿は、一見すると、中学生でも通りそうなほど若く見える。4年前の全日本選手権優勝者の今西美晴は、今年、29歳を迎えていた。

 昨年の4月から今西は、元世界トップ50の中村藍子と、その伴侶でコーチの古賀公仁男が立ち上げた、兵庫県のアカデミーを拠点としている。環境を一変しての、再出発。ただそれは、必ずしも本人の意思によるものではなかった。

 2017年に悲願の全日本タイトルを手にした今西は、翌年、ランキングも自己最高の187位に到達。

 だが以降は戦績的に苦しみ、2020年の春先には、所属先の島津製作所との契約も終了した。

 さらには時を前後して、新型コロナウイルス感染拡大により、大会は次々と中止になる。

「もう、テニスは無理やって言われてるんかな?」 

 そんな負の運命論に、心が揺さぶられもした。

 かつて指導を仰いだコーチの古賀から、「うちでやらないか」と声を掛けられたのは、そんな折である。当時の新設アカデミーを拠点とするのは、ジュニア上がりの今村咲のみ。移った環境も含め、全てがゼロからのスタートだった。
 
 コロナ禍に加え資金面でも苦しんだ昨年は、海外遠征は控えることを余儀なくされる。今季は、エジプトやチュニジアへの長期遠征に出たが、もどかしい日が多かったと打ち明けた。

「ケガも重なり、練習をがんばりたくてもがんばれない。毎日100パーセントでやりたいけれど、試合直前に腰を痛めたり…、もう自分は終わりなのかと思いもした」

 それでも「応援してくれる人たちに応えたい。悔いなく最後まで戦い切りたい」との想いを原動力に、つなぎとめてきた気力と日々。

「一戦一戦が勝負」

 それが今の、偽らざる心境だ。
 
 昨年は初戦で敗退した全日本で、今年、今西はベスト4まで勝ち上がっている。それも、2回戦の上田らむ戦、そして準々決勝の小堀桃子戦のいずれも、フルセットの大熱戦。とりわけ小堀との試合では、第1セットは1-5、ファイナルセットも1-4の窮状から巻き返し、泥臭く勝利をもぎ取った。

 結果的には、優勝した時以来の好調を維持している今大会。だが実は、「直前にぎっくり腰になり、練習も十分にできなかった」という厳しい状況で迎えていたという。

 ただ、できることが限られたことで、雑念がそぎ落とされ、やるべきことが明瞭化された。

「足を使って早いタイミングでボールを捉え、相手のボールが浅くなったら前に入る」

 言語化すればシンプルだが、実際に貫くのは困難な「私のテニス」。それを可能にしているのは、「最近の若い子たちは、スライスやドロップショットも打てて、みんなうまい」という、対戦相手たちへのある種の敬意。虚心坦懐に現状を受け入れることで、プレーに迷いがなくなったようだ。

 どこか達観した空気をまとい勝ち進んだ準決勝で、今西を待つのは、20歳の光崎楓奈。

“今どきのうまい若手”との対戦は、趣深い一戦になるはずだ。

◆女子シングルス準々決勝の結果(11月4日)
今西美晴(EMシステムズ)[12] 7-6(9) 1-6 7-6(2) 小堀桃子(橋本総業ホールディングス)[4]

取材・文●内田暁

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