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「シングルスの決勝で戦いたいね」2人で転戦したヨーロッパ遠征で力を付けた20歳の川村茉那と光崎楓奈が全日本選手権の決勝の舞台へ<SMASH>

内田暁

2021.11.05

ダブルスでも決勝進出を果たした川村茉那(左)と光崎楓奈(右)。写真提供:内田暁

ダブルスでも決勝進出を果たした川村茉那(左)と光崎楓奈(右)。写真提供:内田暁

 今大会が始まる前、2人で話していた“理想の物語”が現実になるとは、その時、当人もどれほど本気で信じられていただろう?

 20歳の川村茉那と光崎楓奈は、今年の7月から9月にかけての2カ月間、ヨーロッパを2人だけで転戦した仲だ。試合が終わればすぐに飛行機のチケットを探し、入国条件やPCRテスト要項を確認するため、ウェブサイトの英語とも格闘してきた。

 慣れぬレッドクレーでの戦いで、両者ともに欧州勢のパワーや赤土巧者の技に苦しめられもする。

 どうやれば、世界で勝てるのか——。ダブルスでもペアを組んだ2人は、部屋に帰れば戦術やテニスの話も重ねてきたという。

「私は英語ができないんで、英語が得意な川村さんに頼っていました」。小柄な光崎が苦笑いを浮かべれば、父親が高校の英語教師の川村は、「2人でラケットバッグを担いで不安そうにしていると、みんな親切にしてくれるんです」と目じりを下げる。

 コート内外の両方で苦しいことも多かったが、2人はいずれも、「このヨーロッパ遠征で力をつけたし、自信になった」と口を揃えた。特にターニングポイントとなったのが、8月にポルトガルのITF$25,000大会でつかみとったダブルス優勝。二人三脚で、欧州の赤土の上に成長の足跡を刻んできた。

 帰国し、全日本選手権を控えた調整でも、2人は約1カ月間ともに練習を重ねたという。

「シングルスの決勝で戦いたいね」「ダブルスでも決勝に行きたいね」

 その願いはドローを見た時、小さな実現への予感となる。2人が配されたのは、ドローの反対側。対戦するとしたら、決勝しかありえなかった。
 
 欧州の赤土で力をつけてきた2人だが、磨いた武器や、もとからのプレーの特性は異なる。コロナ禍で遠征できない間、ベース向上に励んだ川村の武器は、高い「駆け引き」の能力。「相手の動きを見て、動きやショットを読む練習ばかりやってきた」という戦略家は、今大会でも相手のプレースタイルに応じ、自らのプレーを適応させてきた。逆転勝利やフルセットの試合が多いのも、そのような資質によるところが大きいだろう。

 準決勝の荒川戦でも、序盤は「相手の減速ボールを強打で決めようとしすぎた」ため奪われるが、ひとたび、じっくり打ち合うことを心掛けてから主導権を掌握する。欧州勢と戦うなかで「しっかり打ち合えるようになった」と自信を深めたフォアで、機を見てウイナーを奪う場面も。ゆったりとした流れに相手を引きずりこみ、二度と逃さぬ試合構成力が持ち味だ。

 一方の光崎は、小気味の良いストロークとフットワークで、やるべきことを貫くタイプ。準決勝では今西相手に、「真ん中に返して、しっかり粘る」というカウンター封じの定石を徹底した。ラリーが続き、イレギュラーも多いクレーで磨いた「粘り強さと、ベースとストローク力」を存分に発揮しての勝利。

 試合後、「先に川村さんが決勝に上がったので緊張していた」と明かす光崎の頬に、友人との約束を果たした安堵とうれしさが灯った。

 2人が初めて対戦したのは、全日本小学生選手権の準決勝。その時を含め、過去3回対戦し2度敗れた川村は、光崎を「打つタイミングや球の伸びが、日本人にはいないタイプ」と評する。一方の光崎は、「川村さんはボールの軌道が安定している。しっかりラリーしながら、前に入ってドライブボレーを打つのが上手い」と、ライバルのプレーの幅を警戒する。

 決勝を2人で戦うことは、大会が始まる前から共有してきた夢。ただその先は、それぞれ異なる結末を思い描いたはず。

 そして明日の決勝戦で、かならず、どちらかの夢が現実になる。
 
取材・文●内田暁 

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