「色んな人から聞かれます。『ここには選手でいるの?』って」
メガネの奥の目を人懐っこく細め、長身を屈めて恥ずかしそうに彼は笑った。
ジャージ姿にラケットを手にする彼の姿は、世界中のテニス会場で見ることができる。ただその多くは、二宮真琴のコーチとして。今年の全日本選手権のように、本人が選手としてコートに立つのは、最近では珍しいことだった。
小野田賢がコーチ業に軸足を移し始めたのは、30歳を迎えた2018年頃である。特に転機となったのは、ツアーを転戦する傍ら、立川ルーデンステニスクラブでジュニアを教え始めたことだった。
「その頃からツアーコーチにも興味があったので、2018年に立川で東レパンパシフィックが開催された時、『選手たちのヒッティングさせてもらえませんか』と自分を売り込んだんです」
熱意通じて小野田は東レPPO会場となった立川で、ブシャールやプリスコワら、トップ選手たちの練習相手を務める。
その時に感じたのは、「確かに彼女たちはタイミングの早さなどはあるが、日本人選手でも十分に対抗できる」ということだった。
この東レPPOでの仕事によって、小野田の指導者業への関心は、周囲の知るところとなったのだろう。その後も彼のもとには、大坂なおみのヒッティングパートーナーなど、海外帯同の依頼も舞い込むようになる。二宮のコーチも、そんな話の一つだった。
「当時の彼女は、東京オリンピック出場を目指し、ダブルスに絞ってしっかりツアーを回りたいと考えていたようです。そこで2019年末にトライアルで2大会に帯同し、翌20年から正式にスタートしました」
かくして二宮の指導者として、小野田は本格的にツアーコーチのキャリアを歩み始めた。
コーチの視点で二宮を見た時、小野田が気になったのは「真面目すぎる」彼女の性格だったという。
「真琴ちゃんは真面目なので、試合中も全てのポイントで頑張るんです。でもそれでは、試合の流れに持っていきたくてもできない。誰しも調子やメンタル面の揺らぎがある中で、それに試合の流れを合わせれば、気持ち的にも楽になれます」
生真面目な性格のため、ミスをすれば自分を責め、精神的に窮してしまう。そのような二宮の心のメカニズムを理解できるのは、小野田いわく「僕も彼女と似たタイプ」だったからだ。
「僕も自分の試合では、特にダブルスは勢いで最後まで行こうとしていたんです。でもキャリアの終盤に差し掛かった頃、『ラストイニング』という野球監督が主人公の漫画を読み、試合の流れを意識するようになった。それで良くなったと感じたことがあったので、真琴ちゃんにも助言しました。似たタイプだと思うので、彼女の気持ちがわかるんです」
全てのポイントを全力で取りに行くのではなく、パートナーとの歯車がかみ合っている時に一気に畳みかける。あるいは、相手が勢い付きそうなタイミングで、勝負に出て流れを断ち切る。
時に、捨てるポイントやゲームがあってもいい。気持ちを切り替えるため、極端な話、パートナーのせいにしてもいい。小野田がコーチ就任後に取り組んできたのは、試合の潮目を見極めて流れを生み、それに乗る能力だった。
メガネの奥の目を人懐っこく細め、長身を屈めて恥ずかしそうに彼は笑った。
ジャージ姿にラケットを手にする彼の姿は、世界中のテニス会場で見ることができる。ただその多くは、二宮真琴のコーチとして。今年の全日本選手権のように、本人が選手としてコートに立つのは、最近では珍しいことだった。
小野田賢がコーチ業に軸足を移し始めたのは、30歳を迎えた2018年頃である。特に転機となったのは、ツアーを転戦する傍ら、立川ルーデンステニスクラブでジュニアを教え始めたことだった。
「その頃からツアーコーチにも興味があったので、2018年に立川で東レパンパシフィックが開催された時、『選手たちのヒッティングさせてもらえませんか』と自分を売り込んだんです」
熱意通じて小野田は東レPPO会場となった立川で、ブシャールやプリスコワら、トップ選手たちの練習相手を務める。
その時に感じたのは、「確かに彼女たちはタイミングの早さなどはあるが、日本人選手でも十分に対抗できる」ということだった。
この東レPPOでの仕事によって、小野田の指導者業への関心は、周囲の知るところとなったのだろう。その後も彼のもとには、大坂なおみのヒッティングパートーナーなど、海外帯同の依頼も舞い込むようになる。二宮のコーチも、そんな話の一つだった。
「当時の彼女は、東京オリンピック出場を目指し、ダブルスに絞ってしっかりツアーを回りたいと考えていたようです。そこで2019年末にトライアルで2大会に帯同し、翌20年から正式にスタートしました」
かくして二宮の指導者として、小野田は本格的にツアーコーチのキャリアを歩み始めた。
コーチの視点で二宮を見た時、小野田が気になったのは「真面目すぎる」彼女の性格だったという。
「真琴ちゃんは真面目なので、試合中も全てのポイントで頑張るんです。でもそれでは、試合の流れに持っていきたくてもできない。誰しも調子やメンタル面の揺らぎがある中で、それに試合の流れを合わせれば、気持ち的にも楽になれます」
生真面目な性格のため、ミスをすれば自分を責め、精神的に窮してしまう。そのような二宮の心のメカニズムを理解できるのは、小野田いわく「僕も彼女と似たタイプ」だったからだ。
「僕も自分の試合では、特にダブルスは勢いで最後まで行こうとしていたんです。でもキャリアの終盤に差し掛かった頃、『ラストイニング』という野球監督が主人公の漫画を読み、試合の流れを意識するようになった。それで良くなったと感じたことがあったので、真琴ちゃんにも助言しました。似たタイプだと思うので、彼女の気持ちがわかるんです」
全てのポイントを全力で取りに行くのではなく、パートナーとの歯車がかみ合っている時に一気に畳みかける。あるいは、相手が勢い付きそうなタイミングで、勝負に出て流れを断ち切る。
時に、捨てるポイントやゲームがあってもいい。気持ちを切り替えるため、極端な話、パートナーのせいにしてもいい。小野田がコーチ就任後に取り組んできたのは、試合の潮目を見極めて流れを生み、それに乗る能力だった。