最後は時速183キロのセカンドサービスが、相手のラケットを弾いた。
天を仰ぐ控えめなガッツポーズには、本戦出場の喜びと共に、ここは通過点だという気概がにじむ。28歳のダニエル太郎が、全豪オープンテニス予選3試合を勝ち上がり、通算18回目となるグランドスラム本戦出場を決めた。
ダニエルが今大会でイタリア人と対戦するのは、3試合連続の3度目のこと。「奇妙なドロー」と笑いつつ、この日の対戦相手のサルバトーレ・カルーゾについては、次のように述懐する。
「もともとトップ100にいた選手だし経験が豊富。1、2回戦で対戦した選手よりもボールが鋭く、最初はタフな展開になった」
明確な作戦を描いて試合に挑んだというダニエルだが、先にブレークを許す苦しい立ち上がりを強いられる。それでも相手のボールに慣れると、ストロークで押し込む場面が増えていった。
何よりこの日、ダニエルのプレーを心身の両面で支えたのは、サービスだ。
「最初から終わりまで、こんなにサービスが良かった試合は記憶にない」と自画自賛するほどに、この日はサービスが伸びる。それも、速度に頼るだけではない。スライスやキックをファーストサービスから織り交ぜて、相手に的を絞らせなかった。
「200キロのサービスを打ち続けても、ここはコートが速いし、相手のリターンが鋭く返ってくる。色々混ぜながら打つようにした」
その冷静な判断力が奏功し、終盤の3ゲーム連取で第1セットを逆転で奪取。
第2セットは並走状態が続くも、勝負どころの第8ゲームで、相手のダブルフォールトに乗じて畳みかけた。特に効果的だったのが、バックのクロスからダウンザラインへの切り返し。そのパターンでブレークを奪うと、続く勝利へのゲームでは、好サービスを連発する。試合が進んでも落ちることのないスピードは、最終ゲームで215キロを記録した。
何かを改善したから、今このような好結果につながった――というような安易な見方を、ダニエルは常に否定する。全ての要素は複雑に絡み合い、その化学反応も時々で変化するからだ。
ただ、彼の中で「やってすごく良かった」という昨今の取り組みがあるという。それが、昨年初夏から始めたメンタルトレーナーとの意識改革。
「自分をもっと知ることによって、自分で色んな修正ができるようになってくる。僕はどういうことをしたいのか、何が必要なのか、それに気付ける力を鍛えているようなプロセスです」
プロセス……という表現が、悠揚たる求道者のダニエルらしい。さらにはプロセスの内訳を尋ねると、次のような答えが返ってきた。
「日頃から、リスクと自分のしたいことを計算し、自分にエネルギーを与える物をどんどん探していく。これは自分にエネルギーを与えるものか、あるいは奪うものか考えて行動する。それを極めていくには、ミスも経験しながら次に進むしかないので」
目指す地点は常に、今いる場所の少し先。だからこそ、予選突破もプロセスの過程と捉え、次は本戦での勝利を目指す。
◆男子シングルス予選決勝の結果(1月14日)
ダニエル太郎(日本)[7] 6-4 6-3 サルバトーレ・カルーゾ(イタリア)[29]
現地取材・文●内田暁
【PHOTO】ダニエル太郎はじめ、東京オリンピックに挑んだテニス日本代表
天を仰ぐ控えめなガッツポーズには、本戦出場の喜びと共に、ここは通過点だという気概がにじむ。28歳のダニエル太郎が、全豪オープンテニス予選3試合を勝ち上がり、通算18回目となるグランドスラム本戦出場を決めた。
ダニエルが今大会でイタリア人と対戦するのは、3試合連続の3度目のこと。「奇妙なドロー」と笑いつつ、この日の対戦相手のサルバトーレ・カルーゾについては、次のように述懐する。
「もともとトップ100にいた選手だし経験が豊富。1、2回戦で対戦した選手よりもボールが鋭く、最初はタフな展開になった」
明確な作戦を描いて試合に挑んだというダニエルだが、先にブレークを許す苦しい立ち上がりを強いられる。それでも相手のボールに慣れると、ストロークで押し込む場面が増えていった。
何よりこの日、ダニエルのプレーを心身の両面で支えたのは、サービスだ。
「最初から終わりまで、こんなにサービスが良かった試合は記憶にない」と自画自賛するほどに、この日はサービスが伸びる。それも、速度に頼るだけではない。スライスやキックをファーストサービスから織り交ぜて、相手に的を絞らせなかった。
「200キロのサービスを打ち続けても、ここはコートが速いし、相手のリターンが鋭く返ってくる。色々混ぜながら打つようにした」
その冷静な判断力が奏功し、終盤の3ゲーム連取で第1セットを逆転で奪取。
第2セットは並走状態が続くも、勝負どころの第8ゲームで、相手のダブルフォールトに乗じて畳みかけた。特に効果的だったのが、バックのクロスからダウンザラインへの切り返し。そのパターンでブレークを奪うと、続く勝利へのゲームでは、好サービスを連発する。試合が進んでも落ちることのないスピードは、最終ゲームで215キロを記録した。
何かを改善したから、今このような好結果につながった――というような安易な見方を、ダニエルは常に否定する。全ての要素は複雑に絡み合い、その化学反応も時々で変化するからだ。
ただ、彼の中で「やってすごく良かった」という昨今の取り組みがあるという。それが、昨年初夏から始めたメンタルトレーナーとの意識改革。
「自分をもっと知ることによって、自分で色んな修正ができるようになってくる。僕はどういうことをしたいのか、何が必要なのか、それに気付ける力を鍛えているようなプロセスです」
プロセス……という表現が、悠揚たる求道者のダニエルらしい。さらにはプロセスの内訳を尋ねると、次のような答えが返ってきた。
「日頃から、リスクと自分のしたいことを計算し、自分にエネルギーを与える物をどんどん探していく。これは自分にエネルギーを与えるものか、あるいは奪うものか考えて行動する。それを極めていくには、ミスも経験しながら次に進むしかないので」
目指す地点は常に、今いる場所の少し先。だからこそ、予選突破もプロセスの過程と捉え、次は本戦での勝利を目指す。
◆男子シングルス予選決勝の結果(1月14日)
ダニエル太郎(日本)[7] 6-4 6-3 サルバトーレ・カルーゾ(イタリア)[29]
現地取材・文●内田暁
【PHOTO】ダニエル太郎はじめ、東京オリンピックに挑んだテニス日本代表