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ナンバー1になれるメンタルとは? スポーツ心理学の権威博士が独自解説!「トップ選手の脳波を見ると、とても穏やか」【Part1】<SMASH>

赤松恵珠子(スマッシュ編集部)

2022.04.25

レーヤー氏はフェデラーについて、「脳が効果的な働きをしてくれない状態では素晴らしい選手にはなれない」ことを悟り、変わったと言う。(C)Getty Images

 最近、スポーツメンタルについての話題が多く持ち上がっている。テニス雑誌『スマッシュ』では2012年のビッグ4全盛期の時に、スポーツ心理学の権威、ジム・レーヤー博士に話を聞いている。その内容を紹介しよう。1回目はトップ選手のメンタルについて。

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 トップ選手のメンタルとは普通の選手と比較して、どんな点が優れているのだろうか。レ―ヤー博士は、次のように語ってくれた。

「素晴らしい選手の脳は普通のレベルの選手とは大きな違いがあります。彼らは脳について学び、鍛えて、プレッシャーがかかった状態でも尋常では考えられないような反応ができるようになっているのです。

 普通レベルの選手であれば、プレッシャーがかかると怖がったり、怒ったり、ナーバスになります。しかし、トップ選手の脳は鉄のようで、彼らの脳波を見ると、とても穏やかなのです。彼らはプレッシャーがかかった状態でより落ち着き、リラックスして集中できるように訓練されているのです。

 このようにトップ選手はプレッシャーに対して普通ではない反応を見せます。それは、訓練を受けた兵士や、手術をする医師と同じです。重いプレッシャーがかかっている状況で素晴らしい能力を出せる人たちは、プレッシャーというストレスをコントロールする独特のアプローチの仕方を発達させているのです。それがトップ選手の優れている点だと言えるでしょう。

 また、トップ選手は決してエネルギーを無駄に使いません。例えば、フェデラーのプレーを見た時、身体の使い方が生体力学においてとても効果的であることがわかるでしょう。見ることはできませんが、実は脳もとても効果的に働いています。

トップ選手がラケットを投げたりするシーンはほとんど見ることがないでしょう。彼らはエネルギーを無駄に使わないように注意しています。長い試合や接戦の時には特に。ラケットやボールを扱うことと同様に、トップ選手はエネルギーをうまく扱える能力を持っているのです。この能力がない選手はナンバー1にはなれません」
 
 フェデラーは以前約4年間1位の座に君臨し続けた。メンタル面から見て、これほど長い期間トップを守ることがなぜできたのだろうか。「彼はジュニアの頃、とても感情的で、すぐに怒ったりナーバスになっていました。しかし彼は、脳が効果的な働きをしてくれない状態では素晴らしい選手にはなれないと悟ったのです」と説いている。

「セルフコントロールすることを学んでいくにつれて、ポジションに戻る歩き方や、ミスした時の対応方法、セットを落とした時など劣勢時にどうするべきか、ブレークポイントを握られた時にどうするべきかなどの習慣を身に付けていったのです。

 それができるようになると、波がなくなってきました。フェデラーは無類の才能の持ち主であるため、プレッシャーをコントロールできるようになれば、テニス界をあれだけ長い期間支配できたことも理解できます」

 メンタルの強さとは、生まれ持ったものではなく、鍛えて強くするものだということが理解できただろうか? 突然トップレベルのメンタルを手に入れるのはムリでも、メンタルが弱いと感じているなら、少しずつ鍛えて強くしていこう。

解説者●ジム・レーヤー(Jim Loehr)
M・ナブラチロワなどトップアスリートのメンタル指導を行ない、1987年に「メンタル・タフネス」を発刊。現在は自身が共同創設者であるJohnson & Johnson Human Performance Institute, Inc.で一流企業のエグゼクティブに向けてメンタル指導を行なっている。 

取材●赤松恵珠子(スマッシュ編集部)、コーディネーター●石井秀樹
※スマッシュ2012年7月号から抜粋・再編集

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