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海外テニス

ウインブルドン初勝利の本玉真唯!「一番しんどかった2週間」を経て取り戻した「テニスを楽しむ」気持ち<SMASH>

内田暁

2022.06.29

ランキングポイントの呪縛から解放された本玉真唯が自身初となるグランドスラム2回戦進出を進めた!。(C)Getty Images

ランキングポイントの呪縛から解放された本玉真唯が自身初となるグランドスラム2回戦進出を進めた!。(C)Getty Images

 戦前に「試合を楽しみたい、このコートを噛みしめたい」と抱いたその想いは、半分は果たされ、半分は不完全燃焼だったろう。

 予選を勝ち上がった本玉真唯の初のウインブルドンは、第1セット4-1とリードしたところで、相手のクララ・タウソン(デンマーク)の棄権により終幕する。グランドスラム初勝利は、かくして唐突に訪れた。

 とはいえこの一勝が、本玉のプレーと勝利の価値を棄損するものではない。当時の朝から「緊張はなかった。イギリスに来てから一番調子が良い」と明言するほどに、コートでの本玉のプレーは伸びやかだった。

 相手はジュニア時代から期待された19歳の新鋭だが、長身ゆえに足元のボールは苦手とするだろうと踏み、低い軌道のショットを左右に打ち分けた。わずか5ゲームではあるが、予選から積み上げてきた攻撃的かつ粘り強い本玉のテニスを、存分に聖地の芝の上に描いた末の勝利である。

 ジュニア時代から世界の舞台で活躍し、22歳で予選を突破しグランドスラム本戦デビュー。その足跡は順当とも、コロナ禍に躍進の足を取られたとも見えるだろう。

 ただ本人は、「テニスをやってきた中で一番しんどかったのは、イギリスに来る前の2週間」だと、ついひと月前の日々を振り返る。

 昨年末にランキングを上げたことにより、今季はWTAやチャレンジャーの高いレベルを主戦場とした。結果、競った試合が多いながらも、勝利は思うように手に入らない。

 その事実が、シーズン中盤に入り、心に重くのしかかった。

「ポイントを失うとか、ランキングのことを考えすぎちゃって。コーチたちは上を見ていたのに、わたしはランキングが落ちることばっかり考えていた」

 長い目で見れば、ツアーレベルで競った試合ができていることは、将来につながる経験。だが当時の本玉には、敗戦という結果しか目に入らなかった。
 
 気持ちが立て直せないなかで、全仏後は2週間コートを離れたという。

「コーチたちを裏切ってしまった」

 後ろめたさも、さらに気持ちを沈ませた。

 そんなポイントへの執着を振り払ったのは、矛盾するようだが、ポイントのないウインブルドン予選への出場を決めた頃だ。

「子どもの頃からテレビでも見ていた、いちばん大好きな大会」という純然たるウインブルドンへの憧憬が、「楽しむ」気持ちをよみがえらせた。

 今回、本戦の初戦に挑む際にも、日本に居るコーチの神尾米さんからは、「楽しんできて!」と電話で背を押されたという。「がんばれー!」という日本語の声援も飛ぶ中で戦い、結果的に得た勝利。

「今ウインブルドンに来て、なぜあんなにポイントのことを考えちゃってたんだろって」

 試合後にはそう言いながら、無邪気な笑みを顔中に広げた。

 “ポイント無し”の特別処置により、むしろ聖地での試合を楽しめたのは、僥倖でも運命的でもある。

 そのなかで、まずは勝利を得た。楽しむ心も取り戻せた。だからこそ2回戦では、初戦で唯一得られなかった“完全燃焼感”をつかみにいく。

現地取材・文●内田暁

【PHOTO】ウインブルドン2022に挑む、本玉真唯ら日本人選手たち

 
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