海外テニス

母国の侵攻に苦悩しながら戦い抜いたルブレフの1年を母親が述懐「彼の心は壊れかけていた」<SMASH>

中村光佑

2022.12.08

母国ロシアの侵攻に対し、明確に平和を希求する姿勢を見せたルブレフ。母親は「彼はヒーローのように振る舞った」と称える。(C)Getty Images

 今年2月末に始まったロシアのウクライナ侵攻は,テニス界にも大きな影響を与えている。そのなかで男子テニス界のトップで活躍するロシア国籍のアンドレイ・ルブレフ(世界ランク8位)は母国をめぐる世界情勢に複雑な思いを抱きながらシーズンを戦い抜き、今季は4つのツアータイトルを獲得した。難しい状況下でしっかりと結果を残した25歳の俊英を褒め称えているのは、他ならぬ母親のマリナ・マレンコさんだ。

 ルブレフと言えば細身の身体から放たれる強烈なフォアハンドとアグレッシブなテニスが魅力の選手だが、その一方で自身の影響力を恐れない言動も高く評価されている。優勝を飾った今年2月のドバイ選手権の準決勝終了後に中継カメラのレンズへ「戦争はやめて」と記し、SNS上でも大きな反響を呼んだ。

 また先月中旬に出場したシーズン最終戦「Nitto ATP ファイナルズ」(イタリア・トリノ/ハードコート)のラウンドロビン(グループリーグ)初戦では、同郷で幼馴染みのダニール・メドベージェフ(7位)との大激戦を制した直後に中継カメラのレンズに「peace(平和)」の5文字を上から3つ並べ、続けて「それ(平和)は私たちが必要としているものだ」とサインした。

 このほどロシアのスポーツメディア『Sport24』のインタビューに応じたマレンコさんは、各方面から批判を浴びてしまう可能性があるにもかかわらず、1日も早い平和の実現のために声を上げ続けてきた息子を、「彼は本当のヒーローのように振る舞ったと思います」と称賛した。
 
 それでもやはりウクライナ侵攻がルブレフのメンタルを大きく揺さぶったことは否定できないとコメント。「戦争さえなければ…」と口にしたマレンコさんはこう続けた。

「彼はロシアのウクライナ侵攻によって与えられた全ての不安と、彼が自身の立場から声を上げたいという永続的な欲求に対処しなければなりませんでした。何でもできる状態だったとは思うのですが、紛争があまりにひどく、成績に影響してしまったようです。こんなことがなければ、彼はもっと成功していたに違いありません」

「彼にとって、今年はとても難しい年でした。記者会見で常に質問してくるマスコミにもプレッシャーを感じ、彼の心は壊れかけていました」

 だからこそマレンコさんはトップ10をキープして今シーズンを終えた息子のことを「本当に誇らしく思っている」と言う。最後には今後のさらなる活躍が期待されるルブレフへ、「これから最高の結果が生まれると信じています。2022年シーズンで逆境に立ち向かったことで、精神的にとても強くなるでしょう」と母親なりのエールを送った。

 間もなく中東サウジアラビアで開幕するエキジビションマッチ「ディルイーヤ・テニスカップ」(12月8日~10日/ハードコート)に出場するルブレフ。100%の状態で新シーズンを迎えられるよう、調整を進めてほしい。

文●中村光佑

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