海外テニス

同性愛公表のカサキナに対し露議員が“工作員”リスト入りを要請。当人は「なんて素敵なことかしら」と意に介さず<SMASH>

中村光佑

2022.12.15

果たしてカサキナは“外国人工作員”とされるのか? 追及する議員に対しカサキナは「下院に私のファンがいるのね」と笑い飛ばしている。(C)Getty Images

 今年7月にロシア人ブロガー、ヴィティア・クラフチェンコ氏のYouTubeを通じて、自身が同性愛者であることを告白した女子テニス世界ランク8位のダリア・カサキナ(ロシア)。反LGBT(レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダー)の風潮が根強いロシア国内の法律では「同性愛の宣言」を禁止しているにもかかわらず、これまでに抱えてきた苦悩を全て打ち明けた彼女に思わぬ制裁が科されそうになっている。

 これは露政府の下院で代議士を務めるロマン・テリュシコフ氏がロシアスポーツメディア『RB Sport』のインタビューで発言したもので、同氏は「カサキナを"外国人工作員"のリストに加えるよう要請する書簡を法務省に送付した」とのコメントを発表した。

 海外テニス系メディア『UBITENNIS』によると、"外国人工作員"は旧ソ連が政治的反体制者に対して使用していた言葉で、現在のロシアではこれに分類された者は関係当局の厳格な監査の下、様々な制限を課されることになっている。具体的には国家からの資金提供や国立大学での教育、子どもたちとの活動を禁じられ、さらには裁判所の通告なしに該当者のウェブサイトがブロックされることもあるという。

「政治やイデオロギーの問題で他人に影響を与えるツールとして自分の名声を利用するには、顧客から優遇されるだけでなく、国からの責任措置も覚悟する必要がある」と述べたテリュシコフ氏は、カサキナに加え、以前公の場で自国のウクライナ侵攻を非難したカレン・ハチャノフ(男子世界20位)とエフゲニー・カフェルニコフ氏(男子元世界1位/2004年に引退)も外国人工作員リストに登録する見込みとなったと報告。詳細については次のように説明している。
 
「カサキナ、ハチャノフ、カフェルニコフ氏はロシア当局の行動を公然と批判し、ロシア連邦の領域外に永住している。また中立の立場で行動し(ロシア国旗や国名を使用しないことの意)、全世界にNWO(冷戦後の国際秩序を指す言葉)とロシア社会から距離を置いていることを示した。彼らの行動は外国人工作員の分類に関する法律に該当する」

 そのなかでとりわけ同性愛を公表したカサキナを「ロシアでのLGBTのプロパガンダを推進している」と問題視し、同選手が今年9月に露政府からスポーツ名誉大賞を授与されたことも痛烈に批判。さらにテリュシコフ氏はこう続ける。

「私はロシア連邦法務省に彼女(カサキナ)を外国人工作員のリストに加えるよう、訴えの文書を提出しました。同省は正式な回答で、カサキナの違法行為を止めることに関心がないことを私に伝えてきました。そこで私は、そのような対応の合法性を確認し、適切な措置を取るよう副次的な要請を再送しました」

 ところが当のカサキナは一連の報道を受け、自身のテレグラムチャンネル(大衆向けのメッセージツール)で「下院に私のファンがいるのね。なんて素敵なことなのかしら」と投稿。重大なペナルティを受ける可能性があることに対してもどこかあっけらかんとした様子を見せている。

 なおカサキナはすでに女子フィギュアスケート選手のナタリア・ザビアコ(エストニア)と交際していることを公にしており、自身のSNSでも度々仲睦まじい姿を画像でアップしている。

文●中村光佑

【PHOTO】カサキナがベスト4入りした2022全仏オープンの女子選手スナップ集