海外テニス

【レジェンドの素顔12】ステファン・エドバーグの“はじらい”から自信みなぎるプレーへの変化│前編<SMASH>

立原修造

2023.03.15

エドバーグの“はじらい”を含んだプレーが日本で人気だった。写真:スマッシュ写真部

 大一番におけるスーパースターたちの大胆さや小心をのぞいていくシリーズ「レジェンドの素顔」。前回に引き続き、ステファン・エドバーグを取り上げよう。

 1987年、ジャパンオープンでエドバーグは力強いプレーを展開して、見事優勝を勝ち取った。特にサービスからボレーに至る一連のショットには抜群の安定感があった。この年のエドバーグは、プレーの随所に自信をみなぎらせていた。それがまた好結果を生んでいたのである。プロ入り当時、自信喪失気味だったエドバーグは、どのようにして自信をつかんでいったのだろうか。

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エドバーグの、はじらいを含んだプレーが好き

 エドバーグは1987年のジャパンオープンテニスの立役者といえるだろう。しかも、この立役者の人気は、日本ですさまじかった。有明コロシアムで彼は連日黄色い歓声を浴びたし、山のようなプレゼントを贈られた。

 母国のスウェーデンでもこれほど注目はされない、とエドバーグが戸惑うはずである。

 エドバーグの人気の秘密はいったいどこにあるのだろうか?本人は「スウェーデンは人口が800万人ちょっとしかいないからさ」と暗に日本の人口の多さを要因にあげているが、理由はもちろんそれだけではなさそうだ。

 こんな光景があった。ジャパンオープンの期間中、エドバーグは試合ごとにインタビュールームで共同記者会見を受けた。そして毎回、インタビュールームの外側には一目エドバーグを見ようとするファンが黒山の人だかりを作っていた。

 ほとんどが女性だったが、その中の1人がエドバーグの魅力について聞かれて"はじらいを含んだプレーが好き"と答えていた。
 
 ――はじらいを含んだプレー。ナイスショットを決めて観客から万雷の拍手を浴びる時、エドバーグは決まって下を向いたままである。まるでクラスメートの前で善行をほめられた内気な少年のように首をうなだれる。

 例えば、ベッカーの場合はどうだろう。サービスエースを取った時の彼は、少し肩をゆすりながら"どうだ!"と言わんばかりの得意気な表情になる。

 それが悪いというのではない。むしろ、自分のプレーに対するあくなき自信がそうさせていて、頼もしくもある。人は有頂天になった時、最も本性をさらけ出すという。喜びを爆発させる者、かえって慎重になる者、テングになる者と様々だ。しかし、はじらう者はまれである。

 そのおくゆかしさに日本の多くの女性たちは美を見つけ、エドバーグの内面に深く関わろうとしているのではないだろうか。同じく日本で人気を得たマニュエラ・マリーバにも同様なことが言える。
 
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“はじらい”と訣別の時――。