「これは、普通にやったら自分が負けるパターンは、あまりないな……」
試合が始まる前の、ウォームアップ。ダリボル・スブルチナのボールを受けた時、西岡良仁は、そう感じたという。
試合に入る前には、色々なことを考えもした。
自身は今大会31シードで、相手は予選あがり。対戦も練習もしたことがなく、球質などは実際に打つまでわからなかった。
さらに、3回戦で当たると思っていたラファエル・ナダルが敗れる姿も、試合前にモニターで見た。
しかもナダルに勝った相手は、西岡が過去3勝1敗と勝ち越す、マッケンジー・マクドナルド。
「ここで勝てば、4回戦に行けるチャンスが広がる」
そんな緊張感を覚えながら、向かった2回戦のコートだった。
しかし実際に打ち合った時、前述したように、自分の負ける要素が少ないと西岡は直感する。サービスがやや読みにくいが、いわゆる“ビッグウェポン”のある選手ではない。それも踏まえ、ウォームアップの時点で西岡の頭脳は、素早くいくつかの“ありえる試合展開”をはじき出した。
「彼に押されるパターンは、ほぼない。負けるパターンがあるとすれば、自分が崩れること。そこさえしなければ、多分負けることはない。最悪、苦しくなれば粘りまくれば何とかなる」
そこまで戦略を整理した時、「気持ちの余裕が生まれた」という。
各セットの立ち上がりで、すべて最初の相手サービスをブレークしたのは、それら明瞭な分析が大きいだろう。加えるなら、「ニューボールの時は球がのびるので、僕は積極的にプレーができた」ことも要因だ。
唯一、西岡の心が乱れたように見えたのが、第2セットの中盤。ミスに叫び声をあげ、自身を叱咤するように言葉を吐いた。
ところが、後に本人が明かしたこの時の“内面の真相”は、なんとも興味深いものである。
「去年の中頃ぐらいから、いわゆる“イライラすること”が自分にとって良くないのか、良いことなのか、いろいろ考えてきた。今日みたいに、それこそスタートの時点で自分の負けパターンがほぼなないとわかった時に、気が抜けてくるのがすごく嫌だったんですよ」
その前提を踏まえて、さらに続ける。
「個人的には、僕は結構イライラしてる時の方が、集中ができる。今日は、もう勝てるだろうなと思ったんですが、そうなると、微妙に何か良くない。意味わからんことをやり出さないように、あえて自分でイライラしようとしました」
イライラ……という言葉が、どのような表精神状態を指すのかは、本人だけの感覚でもあり解釈が難しいところだろう。
ただそれが、闘争心が高まり試合に向かっていく状態であるのは、想像ができる。
「ちゃんと、試合を早く終わらせるために」。そこまで自分を駆り立てた理由を、彼はそう言った。しっかりと3セットで締めくくり、次に備える——西岡がこの試合で自分に課したのは、単なる勝利ではなかった。
試合が始まる前の、ウォームアップ。ダリボル・スブルチナのボールを受けた時、西岡良仁は、そう感じたという。
試合に入る前には、色々なことを考えもした。
自身は今大会31シードで、相手は予選あがり。対戦も練習もしたことがなく、球質などは実際に打つまでわからなかった。
さらに、3回戦で当たると思っていたラファエル・ナダルが敗れる姿も、試合前にモニターで見た。
しかもナダルに勝った相手は、西岡が過去3勝1敗と勝ち越す、マッケンジー・マクドナルド。
「ここで勝てば、4回戦に行けるチャンスが広がる」
そんな緊張感を覚えながら、向かった2回戦のコートだった。
しかし実際に打ち合った時、前述したように、自分の負ける要素が少ないと西岡は直感する。サービスがやや読みにくいが、いわゆる“ビッグウェポン”のある選手ではない。それも踏まえ、ウォームアップの時点で西岡の頭脳は、素早くいくつかの“ありえる試合展開”をはじき出した。
「彼に押されるパターンは、ほぼない。負けるパターンがあるとすれば、自分が崩れること。そこさえしなければ、多分負けることはない。最悪、苦しくなれば粘りまくれば何とかなる」
そこまで戦略を整理した時、「気持ちの余裕が生まれた」という。
各セットの立ち上がりで、すべて最初の相手サービスをブレークしたのは、それら明瞭な分析が大きいだろう。加えるなら、「ニューボールの時は球がのびるので、僕は積極的にプレーができた」ことも要因だ。
唯一、西岡の心が乱れたように見えたのが、第2セットの中盤。ミスに叫び声をあげ、自身を叱咤するように言葉を吐いた。
ところが、後に本人が明かしたこの時の“内面の真相”は、なんとも興味深いものである。
「去年の中頃ぐらいから、いわゆる“イライラすること”が自分にとって良くないのか、良いことなのか、いろいろ考えてきた。今日みたいに、それこそスタートの時点で自分の負けパターンがほぼなないとわかった時に、気が抜けてくるのがすごく嫌だったんですよ」
その前提を踏まえて、さらに続ける。
「個人的には、僕は結構イライラしてる時の方が、集中ができる。今日は、もう勝てるだろうなと思ったんですが、そうなると、微妙に何か良くない。意味わからんことをやり出さないように、あえて自分でイライラしようとしました」
イライラ……という言葉が、どのような表精神状態を指すのかは、本人だけの感覚でもあり解釈が難しいところだろう。
ただそれが、闘争心が高まり試合に向かっていく状態であるのは、想像ができる。
「ちゃんと、試合を早く終わらせるために」。そこまで自分を駆り立てた理由を、彼はそう言った。しっかりと3セットで締めくくり、次に備える——西岡がこの試合で自分に課したのは、単なる勝利ではなかった。