中国テニス界に新たな歴史が刻まれた。

　先週開催された男子テニスツアー「ダラス・オープン」（２月６日～12日／アメリカ・ダラス／インドアハードコート／ATP250）は、現地２月12日にシングルス決勝を実施。世界ランク58位のウー・イービン（中国）が、同37位で第５シードのジョン・イズナー（アメリカ）を６－７（４）、７－６（３）、７－６（12）のフルセットで下し、中国人男子選手として初めてとなるツアー優勝の快挙を成し遂げた。

　類まれなテニスセンスでキャリアの初期から大きな期待を寄せられていた23歳のウーは、ケガや新型コロナウイルス感染拡大によるツアー停止の影響により、2019年３月から昨年１月までのおよそ３年間にわたってトーナメントには１度も出場していなかった。一時は世界ランキングも1000位圏外へと転落し、復帰は厳しいのではないかという声も上がっていたほどだ。

　そんな中で「たくさんのことを乗り越えてきた」と明かすウーは、２月初めにアメリカ・クリーブランドで行なわれたチャレンジャー（下部大会）で準優勝を収め、自身初となるトップ100にランクイン。勢いそのままに今回のダラス大会でも怒涛の快進撃を見せる。

　１回戦で地元勢のマイケル・モー（アメリカ／87位）をフルセットで破ると、２回戦でデニス・シャポバロフ（カナダ／27位）、準々決勝でアドリアン・マナリノ（フランス／59位）という２人の難敵を撃破。準決勝では世界７位のテイラー・フリッツ（アメリカ）を逆転で下し、ツアー決勝に進出した初めての中国人プレーヤーとなった。
  　迎えた決勝戦は両者一歩も譲らない大激戦となる。互いにブレークを許すことなく、第１セットからタイブレークに突入。ここではウーが１ポイント目でミニブレークを許し、そのまま１セットダウンとなってしまう。

　第２セットでは、自身のサービスゲームとなった第12ゲームでイズナーにマッチポイントを握られるもここを何とか凌ぎ切り、この日２度目となったタイブレークではウーが１ポイント目でミニブレークを奪取。このリードを守り切ってセットオールに持ち込む。

　勝負のファイナルセットも両者ともにブレークが出ないまま３度目のタイブレークへ。互いにマッチポイントを握りながらも試合を決めきれないスリリングな展開を繰り返したものの、１３－１２の場面で値千金のミニブレークに成功したウーが約３時間の死闘を制した。

　試合後の勝利者インタビューで悲願のツアータイトルを獲得したウーは「幸せな気分だ。優勝することだけが目的じゃなかった。個人的にというよりは、国のために歴史を作り上げた。次の世代にとっても、これはとても大きなことだ。手術をして、リハビリがうまくいかなかったから、もちろん自分に疑念を抱くこともあった。でも、結果的にはこの場所にいる」と喜びを表現。

　最後には幾多の試練を乗り越えなければならなかった時期を振り返りつつ、「今の段階では、100％またこの場所にいられるかと言えば嘘になる。でも、常にそこに至るまでの過程が一番大事だ。僕は自分を信じて懸命にトレーニングしているし、いつもテニスのことを考えている。今は以前よりリラックスしてテニスを楽しめるようになったよ」と語った。

　今回のダラス優勝で大きな自信をつかんだのは間違いないだろう。今後もどんな活躍を見せるのか、ファンからも注目が集まりそうだ。

文●中村光佑

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