海外テニス

ダニエル太郎が1か月半の北中米シリーズで得たもの「自分のベースのレベルが上がっている」<SMASH>

内田暁

2023.03.29

マイアミ・オープンは3回戦で敗れ、1か月半に及んだ北中米シリーズを終えたダニエル。ルード、ベレッティーニ、ズベレフら強敵を破り、「自分の可能性を感じられた」と言う。 (C)Getty Images

 眩しい日差しが、容赦なくコートや観客席に照り付ける。会場内に流れる大音量ミュージックが試合中も四方から聞こえ、アリーナに隣接されたフードコートの2階席では、観客たちがビールをあおりながら楽しそうに試合をのぞき込んでいた。

 スタンドを包む喧騒と熱は、いかにもマイアミの大会らしい。ただ、2日前に戦ったセンターコートのナイトセッションと大きく異なるその環境が、ダニエル太郎を幾分、戸惑わせていた。

 男子テニスツアー「マイアミ・オープン」3回戦の、ダニエル対エミル・ルースブオリ戦。

「相手がすごくうまく僕対策をしてきたとも思うし、自分もやっぱりコンディションの違いは感じた。ボールが手元に食い込んでくるし、ボールの跳ね方も違って。そこらへんが、特にファーストセットでは慣れなくて……」

 加えて、2回戦で第13シードのアレクサンダー・ズベレフを破っていたダニエルには、『次も勝たなくては』という内なる焦燥もあったという。逸る気持ちを落ち着かせようとするも、試合が組まれた"ブッチ・バックホルツコート"は、驚くほどに進行が早い。

「いつもより自分が焦っていることには気付いていたんですが、僕の前の試合がどれも恐ろしいほど早くて。アップの時間も早めなくてはいけなかったし、基本的に『今日は勝たなくちゃ』と焦っていたので、そこから抜け出すのに少し時間がかかりました」

 もちろん、相手のルースブオリのクールで効率よいテニスも、ダニエルの焦燥に拍車をかけた要因だ。
 
 第1セットは先にブレークで先行するも、相手のネットプレーに苦しめられ逆転を許した。第2セットではチャンスの数ではダニエルが勝るも、最後の重要な数ポイントを常に相手に握られた。

 3-6、6-7(3)の悔しい敗戦。試合後のダニエルは、「環境が全然違っても、アジャストしなくてはいけないのが僕たちの仕事。そこは自分にも責任があるし、学びの一つ」だと言った。

 今回のマイアミ・オープンで、2月から続いた北中米のハードコートシリーズは終了。キャスパー・ルード、マテオ・ベレッティーニ、そして今大会ではズベレフら並み居る実力者を破った1か月半を振り返り、ダニエルは言葉に力を込めた。

「何週間も連続で勝利をつなげられたのは、自分の実力が上がってる証拠。今日みたいに、最高なプレーができたわけではない日でも、チャンスがあるところまで持っていけた。自分のベースのレベルが上がっているフィーリングがある」

 さらに彼は、自分に確認するように「うん」とうなずき、こうも続けた。

「自分の可能性を感じられた……テニスやってて良かったと思えた1か月半だった。それは単に勝ったからだけではなく、プレーの向上を感じられたし、観客とのつながりも得られた。もっともっと、これから学んでいけるところがある、成長できると思えたから、やりがいがある。

 オーストラリア・オープンの時には、テニス以外のことでのつらさがあり、もうテニスができないのではと思うくらい精神的にいっぱい、いっぱいだったんです。でも今大会は、ちゃんとこれから自分はどういうふうに進んでいきたいのか、その方向性が見えてきた場所だった」

「だから、すごい良かったです」。そう言いこぼす少しはにかんだ笑みが、得たものの大きさを、雄弁に物語っていた。

現地取材・文●内田暁

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