海外テニス

【雑草プロの世界転戦記11】アカデミーに所属せずプライベートコーチを数人でシェアするのも有効な選択肢<SMASH>

市川誠一郎

2023.04.05

かつて市川選手(中央)はきめ細かい指導を受けられるスペインの中規模アカデミーに在籍していた。しかしそういう環境がない選手は、プライベートでコーチをシェアする選択もある。写真提供:市川誠一郎

 25歳でテニスを始め、32歳でプロになった市川誠一郎選手は、夢を追って海外のITF大会に挑み続ける。雑草プレーヤーが知られざる下部ツアーの実情を綴る転戦記。

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 ヨーロッパの練習環境についてリポートするシリーズ。これまで大小のテニスアカデミーの待遇について述べてきました。アカデミーで下のクラスにグループ分けされると、きめ細かな指導を受けられず、チャンスが少なくなりがちです。

 他の選手と一緒くたに扱われることを嫌う選手は、より自分のやるべきことにフォーカスするために、アカデミー以外の環境に身を置くことも有力な選択肢になります。

 国際ツアー大会、国際ジュニア大会を回っていると、やはりトップに駆け上がるような選手はプライベートコーチがしっかり付いて、プロフェッショナルなプロジェクトとして二人三脚で取り組んでいるケースが多いです。

 ここで重要なことは、一貫した取り組みを行なうことだと思いますが、アカデミーの練習で一番よく起こる大きな問題は、基本的に選手が多く、コーチがそれらの選手を同時に見ているため、一人ひとりを細かくケアしたり、個人レッスンに時間を割くことはほとんど不可能だということです。

 コーチと二人三脚の関係を結んで共に歩むことや、選手の方がコーチを選んだりすることはできません。練習に付くコーチが毎回違えば、指導内容も毎回違ってしまうし、大きなアカデミーになればなるほど、各選手の細かい悩みには行き届かない"ベルトコンベア式"の画一的な指導にならざるを得ません。
 
 選手は教科書的な正論などすでに理解しているし、またテニスに画一的な正解は存在しません。コーチが選手個人の細かい問題、性格を理解して、それぞれの特性に合った細やかな取り組みを一貫して行なうことが非常に重要なのです。

 ですが、特別扱いされる飛び抜けたトップ選手でない限り、そうした取り組みをアカデミーで行なうのはかなり困難です。それを行なうにはプライベートコーチを雇う必要が出てきますが、今度は高額な費用が問題になります。

 そうした場合にヨーロッパで見かけるのは、選手2~4人程度でプライベートコーチをシェアするという方法です。また選手が多く集まるエリアでは、アカデミーとも呼べないくらい小規模で、1人のコーチを数人でシェアするのと実質的に同じようなテニスチームも多数あります。

 こうした形であれば、練習相手を確保できる上に、細かいところまで行き届いた関係を築くことができます。

文●市川誠一郎

〈PROFILE〉
1984年生まれ。開成高、東大を卒業後ゼロからテニスを始め、32歳でプロ活動スタート。36歳からヨーロッパに移り、各地を放浪しながらITFツアーに挑んでいる。Amebaトップブロガー「夢中に生きる」配信中。ケイズハウス/HCA法律事務所所属。

【PHOTO】雑草プロの世界転戦記・ヨーロッパのテニスアカデミーでの日常風景