海外テニス

「他のスポーツでは見られないこと」元王者マリーが深夜に及ぶテニス界のナイトセッションに苦言「明らかに間違っている」<SMASH>

中村光佑

2023.08.28

今年の全豪では試合終了が午前4時となったマリーが利益優先の四大大会のスケジューリングに苦言を呈した。(C)Getty Images

 間もなく開幕する今季最後のテニス四大大会「全米オープン」(8月28日~9月10日/アメリカ・ニューヨーク/ハードコート)に出場する男子テニス元世界ランク1位のアンディ・マリー(イギリス/現37位)が、大会開幕に先駆けた記者団の取材に回答。同大会主催側が今年度もセンターコートのナイトセッションを例年通り実施すると発表した旨に言及し、「四大大会は選手の健康よりも興行利益を優先している」と強く批判した。

 男女を問わず1日に数多くの試合が組まれるテニスツアーでは、接戦が続くと最終試合の終了時刻が日を跨ぐことも少なくない。悪天候による進行の遅れが生じた場合も同様の事態が発生する。

 最近では現役選手から試合終了時刻が深夜帯になるケースが増えつつある状況を糾弾する声が相次いでいる中、今月初旬に全米主催側は第1試合が19時以降に設定されているセンターコートのナイトセッションを継続し、「今年の大会でも引き続きそれを評価していく」と正式に発表していた。

 この決定に対し、2012年の全米で悲願の四大大会初優勝を遂げたマリーが声を上げた。今年1月の全豪オープン2回戦で午前4時過ぎに終了したタナシ・コキナキス(オーストラリア/現77位)との5時間45分にも及ぶ大激闘を制したことが記憶に新しいマリーは、今回の取材で「試合終了時刻が遅くなりすぎるのは一般的に誰にとっても良くないことだと思う」とコメント。常に厳しいスケジュールをこなすことがテニス選手の宿命だとする風潮には理解を示しつつこう続けた。

「明らかに、選手たちがスケジュールについて文句を言うと、『黙って自分たちの仕事をしていろ』とか、『9時から5時まで倉庫で働いてみろ』という感じの声が聞こえてくる。そういう声があるのは理解しているし、テニスをプレーできるのが幸せなことなのもわかっている。
 
 だがテニスはエンターテインメントの一部でもある。公共交通機関を使って帰宅しなければならないという理由で(試合中に)観客全員が退場するとわかっていて、最終的にそのような(遅い時間の)試合を観客が10%しかいない状態で終えることは、スポーツにとってあまり役に立たないと僕は思う」

 そのうえで改めて「そういう現象は他のスポーツでは見られないことで、それは明らかに間違っている」と批判の言葉を口にしたマリーは、全米に限らず四大大会側が興行収入を重視しすぎていることが無理なスケジュールを強いられる原因になっていると指摘する。

「彼ら(四大大会側)がそうする(無理なスケジュールを組む)のは、プレーヤーにとってそれが良いことだと信じているからではなく、純粋に経済的な理由が関係している。例えば大会側がナイトセッションを19時半に開始するとしよう。(3セットマッチの)女子の試合を2試合やりたいのであれば、その時間でも大丈夫だと思うが、(5セットマッチの)男子の試合を組むのであれば、試合開始時刻をより早くしない限りは、1試合しかプレーできないと思う」と主張した。

 各大会共々「プレーヤーの健康あってのトーナメント」という図式は忘れてはならない。日々身体を酷使しながら戦い続ける選手たちに寄り添う配慮が必要だろう。

文●中村光佑

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