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【雑草プロの世界転戦記19】1年後にはジョコビッチと接戦! ブレーク直前の有望株と出会える下部ツアー<SMASH>

市川誠一郎

2024.02.11

先の全豪でジョコビッチ(左)からセットを奪った18歳のプリズミッチ。1年ほど前にはチュニジアの下部ツアーに出ていた選手だ。(C)Getty Images

 25歳でテニスを始め、32歳でプロになった市川誠一郎選手は、夢を追って海外のITF大会に挑み続ける。雑草プレーヤーが知られざる下部ツアーの実情を綴る転戦記。

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 今回はヨーロッパに限らず、下部ツアー全般でできる貴重な経験について述べたいと思います。ATPツアーやATPチャレンジャーよりグレードの低い「ITFツアー」(旧名称からフューチャーズとも言われます)に出ているのは、世界ランキング300位くらいまでの選手ですが、その後トップランカーになっていく選手の"ブレーク直前"に出会うことが割とよくあります。

 先月の全豪オープン1回戦でジョコビッチと接戦を演じたクロアチアのディノ・プリズミッチを覚えているでしょうか? 18歳とは思えない自信に満ちたプレーでセットを奪い、試合後ジョコビッチからも「自分の鏡とプレーしているようだった」と絶賛されていました。

 そんなプリズミッチもほんの1年ほど前にはチュニジアのITF大会に出場していた選手でした。すごく印象的な選手だったので、当時私のブログでも紹介しましたが、すぐにチャレンジャー大会で結果を残し、1年後のグランドスラム本戦でもうジョコビッチと戦うまでになってしまったわけです。これからトップ30、いえ、トップ10まで入ってくるかもしれません。

 3年前にはトルコで当時16歳のフランス人選手、アルテュール・フィス(現在36位)とも練習する機会がありました。またその頃よく私と練習していたイギリス人選手、ビリー・ハリス(現在196位)は、当時のアルカラス相手にフルセットタイブレークの大接戦を演じています。アルカラスにとってこれの次の大会が、最後にプレーしたITF大会となります。
 
 こうした有力選手が下部のITFツアーでプレーする期間はごく短いですが、飛び抜ける前の若手時代、ブレーク直前に出会うことができるのが下部ツアーの現場なのです。

 下部ツアーを回る選手の多くは、ジュニアの頃に同世代の中で世界トップにいた者ばかりです。彼らは、その後大化けしてトップになっていく選手と、ジュニア時代に対戦したり、勝ったりしていたわけです。

 ジュニアの頃から、わかりやすくトップになりそうな選手もいれば、当時は強くなるとは全く思わなかったのに飛躍する選手もいます。私は、ジュニア期にアルカラスに勝った選手と練習したことがありますが、彼いわく、アルカラスは今のように攻撃的ではなく、全て返してくるプレーだったそうです。そして、彼が強くなるとは全然思わず、むしろコーチのフェレーロの方がずっとうまいと思ったと話していました。

 こういう話がごろごろ転がっているのが、下部ツアーというところです。次回は、元トップ選手が再び下部ツアーに戻ってくるケースについて書きたいと思います。

文●市川誠一郎

〈PROFILE〉
1984年生まれ。開成高、東大を卒業後ゼロからテニスを始め、32歳でプロ活動開始。36歳からヨーロッパに移り、各地を放浪しながらITFツアーに挑んでいる。2023年5月、初のATPポイントをダブルスで獲得。Amebaトップブロガー「夢中に生きる」配信中。ケイズハウス/HCA法律事務所所属。

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