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【伊達公子】下部のITFツアーを一気に駆け抜けるためのメンタリティと方法<SMASH>

伊達公子

2025.02.07

上を目指すのなら「自分のコンディションや調子をみて、リスクを取るタイミングを考えること」と言う伊達公子さん。写真:金子拓弥(THE DIGEST写真部)

 テニス選手は常にグランドスラム(四大大会)本戦出場を目指しています。そのためにも、下部大会であるITF(国際テニス連盟)ツアーは一気に駆け抜けたいものです。しかし、ITFツアーでも下のレベルの賞金2.5万ドル(現在の3万ドル)大会を、なかなか抜けられない選手も多くいます。では、どうすればそこに留まらずにすむのでしょうか。

 私はファーストキャリア時代、2.5万ドルと同等レベルの大会に出場したことがありません。当時、プロを決断していた高校3年の秋に国内で開催されていた一番下のITF1万ドルの4大会出場しました。当時はITFサーキットと呼ばれ、数大会連続で開催されるシリーズ戦になっており、マスターズを含む2大会で優勝したことで世界ランキングは321位となりました。

 その後にワイルドカード(WC=主催者推薦)で出場したWTAツアーのジャパンオープンで予選を突破してベスト8入りしたため、189位にジャンプアップ。すでにエントリーしていたイギリスのマスターズ大会を含む1万ドル3大会には出場し、全て優勝。次は全仏オープン予選でした。最終ラウンドで敗退しましたがラッキールーザー(本戦に欠場者が出た場合の代わり)で本戦入り。1回戦を勝ち本戦2回戦に進出できたことでランキングポイントも加算され、以降はITFには出ませんでした。

 私は1年以内でITFレベルから抜けていますが、これはかなり早い方です。なぜ、それができたかと言えば、コーチの小浦猛志さんから「1年以内にグランドスラムに出場できなかったら、プロテニス選手を辞めろ」と言われていたからです。だから必死でした。

 加えて、小浦さんの戦略もうまかったと思います。実はジャパンオープンは本戦のWCを提案していただいたのですが、あえて予選のWCにしたと後に聞きました。予選からの方が多くのポイントを獲得できますし、予選を戦ったからこそ本戦でも良いプレーが出せたと思います。
 
 最近では、15歳の頃から年齢による大会数の出場制限がある中でスタートし、その後は大会数の制限がなくなるため、トップオブトップは2~3年、トップグループは5~7年となる22~23歳で100位を切れるのが理想です。そのためには、計画を立てて大会に出場することが大切です。

 若い時はお金もないため、「出られる大会に出場しよう」という考えでいるとレベルの壁を突破できません。自分のコンディションや調子をみて、リスクを取るタイミングを考えることです。

 リスクを取るとは、常に同じレベルの大会ではなく、予選でも上のレベルで戦う機会を持つべきです。国を変えれば場所によっては大会のグレードを上げても本戦に入れる大会もないわけではないのです。いつも同じ国の地域で戦っていては、出場している選手の層も変わりません。

 場合によっては大会のWCを申請して、チャレンジする気持ちも必要でしょう。そうすれば、一気にポイントを獲得することも可能になります。つまり、リスクを取る大会を決めて、そこに向けて調子を上げていくスケジュールを考えることです。

 WCをもらったから「経験を積むために出場する」と考えていては駆け抜けられません。WCにも限りがありますから、その大会で勝てる準備ができていてこそ、生かすことができます。どのタイミングで効率良くポイントを稼ぐかというイメージを持っている必要がありますし、同時に希望通りにいかない場合のイメージも持っておくことも大事です。

 この様な考え方を若い選手が持つことは難しいので、指導者の力量が問われることになります。ITFを一気に抜けることの重要性、それに向けての技術、フィジカル面の準備、選手の状態を見て大会をスケジューリングしていくことができる指導者がいれば理想的です。

 本気でプロになってすぐに駆け上がりたいのなら、そういうコーチを16、17歳の頃から探し始めておくことです。ジュニア時代からツアーコーチを依頼するのが難しくてできない場合は、選手本人が将来への道筋を考えて動いていけるようになるといいですね。

 プロになれば、環境も自分で作るわけですから、自分が考えるゴールに到達するには何が必要かということを考えて動きましょう。

文●伊達公子
撮影協力/株式会社SIXINCH.ジャパン

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