海外テニス

「夢は、見続ければ叶う」5歳の頃、父に手を引かれ訪れたフロリダから、新女王・ケニンのテニス人生が始まった【全豪オープンテニス】

内田暁

2020.02.02

子どもの頃から思い続けてきた夢を21歳にして実現させたケニン。写真:山崎賢人(THE DIGEST写真部)

 その"夢の始まり"を知るには、どこまで時間を遡るべきだろう――?

 セレナ・ウィリアムズを3回戦で破った、昨年のローラン・ギャロスか?

"天才少女"として、米国の『テニスマガジン』の表紙を飾った6歳の時だろうか?

 あるいは、マリア・シャラポワがウィンブルドンの芝にヒザを折り、両手を天に突き上げる姿をテレビで見た、5歳の時だろうか……?

「マリア・シャラポワとセレナ・ウィリアムズの2人が、間違いなく私のアイドルだったわ」と、ロシアに生まれ、フロリダに育ったソフィア・ケニンは、幼き日を回想する。

「子どものため、より良い生活を求めて」アメリカに渡ったロシア人の父親は、英語が全く話せないながらタクシードライバーとして生計を立て、趣味のため入手したテニスラケットとボールで、3歳の娘と戯れるようになったという。

 やがて、娘の才能に自らの夢も投影した父親は、ウィリアムズ姉妹も拠点としたフロリダのアカデミーに、5歳の娘を連れていく。そこで幼いソーニャ(ソニアのニックネーム)を見たコーチは、「まるでマルチナ・ヒンギスのようだ」と光るセンスに惚れ込んだ。時を同じくしてこの頃、ソーニャはシャラポワの優勝を見て、その姿に自分を重ねる。

「私も、17歳で優勝したい!」

 もう、その年令は過ぎてしまったけれどね…と、昨年の彼女は苦笑いをこぼしていた。いずれにしてもこの頃から、グランドスラム優勝が彼女の夢になったという。
 
 夢を見続けることは、彼女にとって、さほど難しいことではなかったかもしれない。地元で天才少女として知られたソーニャは、幼少期から綺羅びやかなプロの世界に触れる機会も多かったからだ。

 幼い彼女はマイアミ・オープンに招かれ、キム・クリステルスに『会場ツアー』のガイドをしてもらった。金髪をポニーテールに束ねた少女は、今と変わらぬ意志の強さを目と口元に宿し、トッププレーヤーたちに会っても物怖じする様子もない。当時のビデオには、アンディ・ロディックに「テニスをしてるんだって? しっかり練習するんだよ」と励まされ、大会関係者に「いつか選手としてここに来るよね?」と問われ、「うん」と即答する姿が収められている。

 さらには、クリステルスに手を引かれてインタビュールームも訪れ、「ここは選手が会見する場所。選手はあそこに座って、こっちが記者席」と説明も受けた。「椅子に座ってみる?」と促され、彼女は選手席に座る。

「この椅子ぜーんぶが、記者たちで埋まるのよ!」

 女王が指差す今は誰もいないパイプ椅子の列を、彼女はひな壇から見つめていた。  
 
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