海外テニス

「難しかったです」望月慎太郎が2日間にわたるウインブルドン1回戦を逆転勝利!四大大会初戦突破は自身初<SMASH>

内田暁

2025.07.02

2セットダウンから追いつき、日没順延を挟んで翌日に行なわれたファイナルセットを勝ち切った望月慎太郎が見事2回戦に駒を進めた。(C)Getty Images

「期待しない!」

 運命のファイナルセットの、ゲームカウント6-5――。ブレークすれば勝利となるリターンゲームに挑む望月慎太郎(世界ランキング144位)は、そう叫んでいたという。

「聞こえなかったかもしれませんが、自分的には、けっこう叫んでいたんです」という、やや気恥ずかしそうな注釈付きで...。

 この「期待しない」には、恐らくは二つの意味がある。一つは、相手のミスを期待しないこと。もう一つは、自分の勝利を期待しすぎない......という、ある種の心理術である。

「勝ちたいと思いすぎないこと」は、今大会の予選を勝ち抜いた時の望月が、勝因として挙げた真理だった。勝敗は運の側面も大きい。結果以上に成長の実感に目を向けることで、むしろ結果はついてくると言った。

 そのような、予選時と同じ心の有り様で、挑んだつもりのテニス四大大会「ウインブルドン」本戦初戦。だが実際には、「難しかったですね」と望月は明かす。

「やっぱり勝ちたい気持ちは、出てきちゃいました。相手のサーブが思ったより良かったので、ブレークができなくてイライラしたりと、葛藤はありました」

 初戦の相手のジュリオ・ゼッピエリは、現在のランキングこそ351位だが、1年半前には110位に達した23歳。イタリア人記者によれば、「期待されているが、常にケガに泣かされてきた」選手だという。昨年は利き手の左手首を痛め、シーズン後半を棒に振った。最終的にメスを入れ、今は完全復帰への道半ばにいる。
 
 その23歳が左腕から放つサービスに、望月は苦しめられた。第1セットは2-6。第2セットも3-6。敗色の濃い陰が、4番コートに落ち始めた。

 ただこの時、コートに立つ望月が考えていたことは、恐らくは大半の観客と異なる。

「もし自分が勝つことがあれば、今日中には終わらないな」

 2セットが終った時点で、時計の針は夜の7時を回っていた。まだまだ初夏のロンドンの日は高いが、9時前後には試合は中断となる。苦境に追い詰められたこの時、望月が考えていたのは、日没順延のシチュエーションだった。
 
 後がなくなったことで、望月は吹っ切れただろうか。同時に相手には、フッと気が抜けたところもあっただろう。いずれにしても複数の要因が重なったここから、試合の流れが反転する。「予選から3日空いたが、思ったより疲労があった」と望月は打ち明けたが、疲れで「力が抜ける」という僥倖もあったという。
 
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望月は相手の心理を読みつつ自分を信じて戦った