柴原の試合が第1セット終盤でもつれ出したその頃、隣のコートではダニエル太郎も、苦しみ始めていた。第2セットも2ブレークアップし4-1とリードしたが、5-5に追いつかれる。
「今年よくある、嫌なパターンだ...」
不吉な予兆が、胸をよぎったという。
今季のダニエルは、いわく「人生的には幸福度が高い。テニスも、練習ではすごくうまくいっている」のだが試合になると、勝機を生かしきれない。そのような試合が2つ、3つと続くうちに、「自信がなくなっていった」という。32歳を迎え、ツアーの顔ぶれも一気に若返ったことも、悪循環に油を指す。奇しくもこの日も、2歳年少の元世界14位、カイル・エドムンド(イギリス)が引退を表明したばかり。
「自分が長くトップ100にいた選手であることは若手も知っているし、尊敬してくれているのも感じる」とダニエル。だが相手が抱く敬意は、「失うもののない強み」とも表裏だ。
この日の予選初戦でも、ビタリー・サチコ(ウクライナ/同222位)の開き直りが、追い上げを許した要因だろう。それでも5-5となった相手サービスで、「あれが大きかった」というブレークを奪い流れをせき止めた。最後はサービスをしっかり決め、第2セットは7-5で締めたダニエル。逆風を正面から受け止めつつ、2回戦では元21位の35歳、ヤン-レナード・ストルフ(ドイツ/同145位)に挑む。
大会初戦の日本勢最後の試合は、最もドラマチックな一戦となった。本玉真唯とネットを挟み立つのは、15歳のクリスティナ・ペニコワ(アメリカ/同843位)。今年1月の全豪オープン・ジュニアを制した園部八奏(同271位)の、決勝戦の相手でもある。
地元アメリカ期待のペニコワではあるが、まだまだ経験不足は否めない。立ち上がりはミスが早く、瞬く前に第1セットは6-0、19分で本玉の手に。第2セットも、第3ゲームで本玉がブレークした。
日が西に傾くにつれ、本玉の完勝ムードが漂い始めたコート。だがここから、突如として様相は一変する。
「相手が、しっかり打ってきた。自分は、ポイントが欲しくなってボールを入れにいった」と本玉。
その些細な要素が重なった時、バタフライ効果的に大きなうねりが生じた。ペニコワのフラット気味の強打は、ネットをかすめ、ことごとくライン際に刺さる。第2セットは逆転でペニコワが奪取。第3セットは一進一退の攻防ながら、優位に立つのは15歳だ。
4-5のサービスゲームで本玉は、3本のマッチポイントに直面する。ただ徳俵に足がかかるたび、本玉は驚異の粘り腰を発揮した。
「追い詰められた時ほど、目の前のボールに集中できた」のは、この手の試合を幾度も戦ってきた経験ゆえだろう。「相手はフォアもランニングショットも良いけれど、でもそれは自分のボールが伸びていないから」と認識できていた。絶体絶命の窮状を切り抜けると、タイブレークでは相手の若さが露呈する。終盤でレベルを引き上げた本玉が、6-0、4-6、7-6の薄氷の勝利をもぎ取った。
「グッチャグチャでもいいから、予選は勝つことに価値がある」
安堵と喜びを滲ませて、本玉が断言する。グランドスラム本戦は2度経験している本玉だが、最後に出たのは2024年1月の全豪オープン。この勝利の真価が問われるのは、これからだ。
現地取材・文●内田暁
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「今年よくある、嫌なパターンだ...」
不吉な予兆が、胸をよぎったという。
今季のダニエルは、いわく「人生的には幸福度が高い。テニスも、練習ではすごくうまくいっている」のだが試合になると、勝機を生かしきれない。そのような試合が2つ、3つと続くうちに、「自信がなくなっていった」という。32歳を迎え、ツアーの顔ぶれも一気に若返ったことも、悪循環に油を指す。奇しくもこの日も、2歳年少の元世界14位、カイル・エドムンド(イギリス)が引退を表明したばかり。
「自分が長くトップ100にいた選手であることは若手も知っているし、尊敬してくれているのも感じる」とダニエル。だが相手が抱く敬意は、「失うもののない強み」とも表裏だ。
この日の予選初戦でも、ビタリー・サチコ(ウクライナ/同222位)の開き直りが、追い上げを許した要因だろう。それでも5-5となった相手サービスで、「あれが大きかった」というブレークを奪い流れをせき止めた。最後はサービスをしっかり決め、第2セットは7-5で締めたダニエル。逆風を正面から受け止めつつ、2回戦では元21位の35歳、ヤン-レナード・ストルフ(ドイツ/同145位)に挑む。
大会初戦の日本勢最後の試合は、最もドラマチックな一戦となった。本玉真唯とネットを挟み立つのは、15歳のクリスティナ・ペニコワ(アメリカ/同843位)。今年1月の全豪オープン・ジュニアを制した園部八奏(同271位)の、決勝戦の相手でもある。
地元アメリカ期待のペニコワではあるが、まだまだ経験不足は否めない。立ち上がりはミスが早く、瞬く前に第1セットは6-0、19分で本玉の手に。第2セットも、第3ゲームで本玉がブレークした。
日が西に傾くにつれ、本玉の完勝ムードが漂い始めたコート。だがここから、突如として様相は一変する。
「相手が、しっかり打ってきた。自分は、ポイントが欲しくなってボールを入れにいった」と本玉。
その些細な要素が重なった時、バタフライ効果的に大きなうねりが生じた。ペニコワのフラット気味の強打は、ネットをかすめ、ことごとくライン際に刺さる。第2セットは逆転でペニコワが奪取。第3セットは一進一退の攻防ながら、優位に立つのは15歳だ。
4-5のサービスゲームで本玉は、3本のマッチポイントに直面する。ただ徳俵に足がかかるたび、本玉は驚異の粘り腰を発揮した。
「追い詰められた時ほど、目の前のボールに集中できた」のは、この手の試合を幾度も戦ってきた経験ゆえだろう。「相手はフォアもランニングショットも良いけれど、でもそれは自分のボールが伸びていないから」と認識できていた。絶体絶命の窮状を切り抜けると、タイブレークでは相手の若さが露呈する。終盤でレベルを引き上げた本玉が、6-0、4-6、7-6の薄氷の勝利をもぎ取った。
「グッチャグチャでもいいから、予選は勝つことに価値がある」
安堵と喜びを滲ませて、本玉が断言する。グランドスラム本戦は2度経験している本玉だが、最後に出たのは2024年1月の全豪オープン。この勝利の真価が問われるのは、これからだ。
現地取材・文●内田暁
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