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海外テニス

世界を感動させた、大坂なおみの全米3回戦。15歳ガウフとの心温まるシーンに隠された、ある思いとは……

内田暁

2019.09.02

あふれ出る涙で頬を濡らすガウフに近づくと、大坂は優しく声をかけた。写真:山崎賢人(スマッシュ写真部)

あふれ出る涙で頬を濡らすガウフに近づくと、大坂は優しく声をかけた。写真:山崎賢人(スマッシュ写真部)

 試合が終わりネット際で握手を交わす時、大坂は、対戦相手の目に光るものを見つける。どこかぎこちないハグを交わし、一度は自分のベンチに戻った大坂は、荷物をまとめるガウフの肩をそっと叩くと、「一緒に、オンコートインタビューを受けましょう」と提案した。

「泣いちゃうから、ダメだよ。こんなに大勢の人の前で泣きたくない……」

 そう言うガウフの両目から、みるみる涙がこぼれ出た。だがそれを見た大坂は、なお強く訴える。

「だからよ。このまま帰って泣きながらシャワーを浴びるよりも、自分の想いをここで話した方がいいって」

 大坂のこの言葉にガウフは頷き、2人は肩を並べて、インタビューアーが待つコートに戻る。
「私はこの試合から多くを学んだ。彼女はずっと私に優しかった。本当にありがとう」

 最後にガウフは大坂に向き直り、「本当にこの機会を与えてくれてありがとう。あなたのための時間を奪う気はなかったんだけれど」と、改めて謝意を述べた。

 続いてマイクを向けられた大坂は、ファミリーボックスに座るガウフの両親に、「あなた方のことを昔から見ている。ココを育ててくれてありがとう」と言うと、涙が溢れる目元を拭った。
 
 後に大坂は、この時の涙の意味を説明する。

「私が16歳の頃、ココと私は同じテニスコート場で練習していた。その時のココは……まだ10歳前後!? なのに8時頃にはコートに来て、他の人が来る前に1人で練習しているの。私にとって一番信じられないのは、そこだった。だって10歳よ……」

 その時の幼い少女が、この短期間でアーサー・アッシュ・スタジアムのセンターコートへと駆け上がってきた事実に、彼女は郷愁の涙を流していた。
 
 この夏のハードコートシーズンを迎える前、大坂は、全豪オープン以降テニスが楽しめていないこと、だからこそ、テニスを楽しみたいと意思表明していた。

 全米オープンの折り返し地点で実現した、高揚感と幸福感に満ちた試合――それは、彼女にとっても1つのターニングポイントとなったはずだ。

取材・文●内田暁
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