「あのブレークを境に、彼女はプレーの質を上げた。ショットはことごとくライン際をとらえ、攻撃的になっていった」

　アザレンカがそう振り返れば、大坂も、「最も大きかったのは、第２セットの早い段階でブレークできたこと」と述懐する。「早い段階でブレークできて本当に良かった。もしあのまま終盤に近づいていったら、どんどん緊張しただろうから」

　このブレークが、試合展開上で良いタイミングだったのは間違いない。さらに大坂にとって意味を持ったのが、「自分の成長を示す好例」であったことだ。

「以前の私なら、簡単にズルズルと調子を落としてしまったと思う。でも今日の私は、戦い、食らいついていった」

　今のスコアすら良くわからない。ゴールテープがどこかも見えていない。それでも彼女は、ひたすら目の前のボールを追い、１ポイントを取ることに専心した。

　アザレンカのダブルフォールトから始まった第７ゲームをブレークすると、第９ゲームも５度のデュースの末に奪い取る。
  　ファイナルセットでは、低い重心を常に保ち、左右に振られても体勢を崩すことなく強烈なショットを打ち続ける、強い大坂が戻ってきた。

　第４ゲームをブレークすると、鋭く「カモーン！」と叫ぶ。勝利まで２ゲームと迫った第７ゲームをブレークされるが、直後のゲームで長いラリーを立て続けに制し、再びブレークをもぎ取る。

　最後もこの試合を象徴するかのような、長く激しい打ち合いが続いた。そうして、14本目のショットを放った瞬間、敗戦を悟ったアザレンカの悲痛な叫び声が響く。ネットに掛かったボールが相手コートに落ちるが早いか、大坂は感情を大きく吐き出し、目頭を手で抑えた。

「どうやったのか良く覚えていないけれど、気づけばトロフィーを手にしていたわ」

　無我夢中でつかみ取ったトロフィーには、２年前の優勝者である「Naomi Osaka」の名も刻まれている。あの時よりも成長した自分と、異なる優勝の意味を確かめるように、彼女は手にした銀色のカップに口づけした。

文●内田暁

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