もともと日比野は、スピンをかけたショットを深く打ち、相手を後方に押し下げる技には長ける。さらにそこから「ミドルクロス」につなげることで、相手のタイミングや体勢を崩し、場合によってはそのままウイナーを奪い、拾われても作ったオープンコートを用いて打ち合いを有利に運ぶことができるようになった。
単に前のスペースを使うことでは、ショートアングルの方が効果は高いかもしれない。ただアングルショットを打つにはどうしても、ボールを落とし、打つまで時間をかけなくてはいけない。
対してミドルクロスは、深いクロスと同様に早いタイミングでボールを叩ける。つまりは、相手にコースを読ませぬ効果は一層高かった。
その新たな武器を用いて、スティーブンスをフルセットで下した日比野は、2回戦ではザリナ・ディアス、さらに準々決勝では3年前の全仏オープン優勝者のエレナ・オスタペンコまでをも退ける。2回戦と準々決勝は、いずれも強打自慢の相手のボールに食らいつき、球種巧みにコートを広く用いた末の、赤土で勝つべくして勝った2試合だった。
その意味では準決勝のエレナ・リバキナ戦は、それまでと異なる戦略性が必要とされた試合だったかもしれない。
「長身ということもあり強打してくるタイプかと思ったら、思った以上に緩いボールも使って丁寧に組み立ててきた」という相手に、日比野はややペースを乱された。また、肩口より高く弾む相手のサービスを、最後まで攻略しきれなかったのも敗戦の要因だったという。
2人のグランドスラム優勝経験者を破ってのベスト4は、周囲の目には十分に「いい大会」のようにも映る。だが本人は「もっと良い結果を期待していた自分がいるので、悔しい」と満足の気配はない。同時に、苦手意識を抱いていたクレーでの躍進に「びっくり」とも言うが、この半年間の取り組みを振り返れば、それは必然でもあっただろう。
これまでは「全仏では自分に期待していない」と言っていた日比野だが、今回の結果を受け、期待値が上がるのは如何ともし難い。変なプレッシャーは感じたくないと思いつつも、「ここでの結果を忘れるというのも無理なので」と現状を受け止め、その上で「トップ選手に勝っても、300位の選手に負けることもあるのがこの世界」と気持ちを引き締める。
「前哨戦で結果が出たからといって、フレンチで勝てる保証はない。ベストを尽くすことだけに集中したいです」
自信と初心をブレンドしつつ、18歳のマルタ・コスチュクの待つ、ローランギャロス初戦に向かう。
文●内田暁
【PHOTO】日比野菜緒のフォアハンド『30コマの超分解写真』
単に前のスペースを使うことでは、ショートアングルの方が効果は高いかもしれない。ただアングルショットを打つにはどうしても、ボールを落とし、打つまで時間をかけなくてはいけない。
対してミドルクロスは、深いクロスと同様に早いタイミングでボールを叩ける。つまりは、相手にコースを読ませぬ効果は一層高かった。
その新たな武器を用いて、スティーブンスをフルセットで下した日比野は、2回戦ではザリナ・ディアス、さらに準々決勝では3年前の全仏オープン優勝者のエレナ・オスタペンコまでをも退ける。2回戦と準々決勝は、いずれも強打自慢の相手のボールに食らいつき、球種巧みにコートを広く用いた末の、赤土で勝つべくして勝った2試合だった。
その意味では準決勝のエレナ・リバキナ戦は、それまでと異なる戦略性が必要とされた試合だったかもしれない。
「長身ということもあり強打してくるタイプかと思ったら、思った以上に緩いボールも使って丁寧に組み立ててきた」という相手に、日比野はややペースを乱された。また、肩口より高く弾む相手のサービスを、最後まで攻略しきれなかったのも敗戦の要因だったという。
2人のグランドスラム優勝経験者を破ってのベスト4は、周囲の目には十分に「いい大会」のようにも映る。だが本人は「もっと良い結果を期待していた自分がいるので、悔しい」と満足の気配はない。同時に、苦手意識を抱いていたクレーでの躍進に「びっくり」とも言うが、この半年間の取り組みを振り返れば、それは必然でもあっただろう。
これまでは「全仏では自分に期待していない」と言っていた日比野だが、今回の結果を受け、期待値が上がるのは如何ともし難い。変なプレッシャーは感じたくないと思いつつも、「ここでの結果を忘れるというのも無理なので」と現状を受け止め、その上で「トップ選手に勝っても、300位の選手に負けることもあるのがこの世界」と気持ちを引き締める。
「前哨戦で結果が出たからといって、フレンチで勝てる保証はない。ベストを尽くすことだけに集中したいです」
自信と初心をブレンドしつつ、18歳のマルタ・コスチュクの待つ、ローランギャロス初戦に向かう。
文●内田暁
【PHOTO】日比野菜緒のフォアハンド『30コマの超分解写真』