専門5誌オリジナル情報満載のスポーツ総合サイト

  • サッカーダイジェスト
  • WORLD SOCCER DIGEST
  • スマッシュ
  • DUNK SHOT
  • Slugger
海外テニス

バンパーにヒザがねじ込まれる大事故から世界1位へ。90年代復活の勇者となったトーマス・ムスター【テニス復活物語】

久見香奈恵

2020.10.27

今年はATPカップのオーストリア代表のキャプテンを務めたムスタ―(左端)。ワイン製造やファッションに携わるなど、現在の活躍は多岐にわたる。(C)Getty Images

今年はATPカップのオーストリア代表のキャプテンを務めたムスタ―(左端)。ワイン製造やファッションに携わるなど、現在の活躍は多岐にわたる。(C)Getty Images

「あの時は最もひどい状況だったかもしれない。ひどい状況ではあったが、それはまた私がやりたいことに集中し、再び基礎を固める機会となった。乗り切ることができて、とても幸運だよ」

 そう振り返るムスターは、いつも現実を拒否することなく自身が望んだテニス生活に全神経を注ぎ続けた。その功績が認められ1990年にはATPカムバック・プレーヤー・オブ・ザイヤーに選ばれる。こうして勝利の道を再び歩き続けたクレーの王者は、1995年の全仏でオーストリア人初のグランドスラムタイトルを獲得。翌年には念願の世界ランキング1位に上り詰め歓喜の瞬間に沸いた。交通事故から8年後となる1997年のマイアミオープンでは、悲運と呼ばれた場所で優勝を収め「貴重な勝利」を勝ち取ることに成功。そしてこの優勝が彼のキャリアにとって44回目、最後のツアータイトルとなった。
 
 後に公式な引退表明はなかったものの、1999年に「ホリデーに行く」と言い残し引退。しかし「競技テニスの世界で再び生きたい」と43歳で現役復帰を果たし、約2年の間に19試合を戦った。そのうち2試合で白星をあげたものの2011年10月に再び引退を発表。

 現在、不屈の男はテニスだけでなくワイン製造やファッション界にも進出し、自身の情熱を多用多種に注いでいる。これほどテニスにのめりこんだ彼だからこそ、また何事も時間をかけながら研究熱心に成果を出すことだろう。

「人生には願いがあり、夢があり、時に成功が訪れる。僕たちはそれを信じ続けなければいけないんだよ」

 彼はスポーツに限らず、私たちが生きるために必要な指針を教えてくれているような気がする。

文●久見香奈恵
WTA125大会ダブルス優勝、全日本選手権女子ダブルス優勝、混合ダブルス準優勝といった戦績を挙げた元プロテニスプレーヤー。2017年に現役引退後はテニス普及活動や、イベント出演、WEB執筆等を行なっている。

【PHOTO】全仏オープン2020で活躍した男子選手たちの厳選PHOTOを一挙公開!
NEXT
PAGE

RECOMMENDオススメ情報

MAGAZINE雑誌最新号